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【黒バス:R18】with gratitude

第3章 Sweets in the rain(紫原敦)


「あのさ……」

彼の声が近付いて来たのを感じて、慌てて道の奥へと走って、看板の裏にしゃがみ込む。
運悪く、行き止まりだ……しかもコンビニから1本道を外れただけなのに、人の気配が全くない。
こっちまで来たらどうしようとドキドキしていたけれど、声は途中で動きを止めた。

ホッとしたのも束の間、これじゃあ動けない。
この距離感では、動いた途端に見つかる。
幸いにも屋根の下だから濡れる事はないけれど、ますます体温は下がっていくばかりだ。

「なに? なんかナイショのコト?」

「傘、買って帰る?」

「うふふ、そうする?」

「うーん、どうしよっか」

チラリと覗き見ると、驚く事にふたりは抱き合っていた。
顔を近づけ合って、小声で何か喋りながら、キス。
人通りも少なく、静かな路地にリップ音が響き渡る。
雨、もっとザーザー降って音をかき消してよ。
なんでこんな時に限って小雨になるの? 空気の読み方間違えてるから!

もうやだ、本当に……私、何かしましたか?

「なあ」

「だめだよ、こんなトコで」

「いいじゃん、スカートだし」

「あん、ちょっと」

「折角あんだけ悩んで買ったゴム、早速使いてえんだけど」

「帰ってから……あっ……もう、だめだって」

ねえ、嘘でしょう?

さっき、4年も付き合った彼女と別れ話をしたばっかりだよね?
ねえ、なんでそんな事出来るの?
ねえ、こんなに胸が痛いのは私だけなの?

誰か、教えて。

「俺、今日すんげー疲れたんだって」

「わーかった、ふふ、続きは家でね」

耳を塞いでも塞いでも、無駄だと言わんばかりに鼓膜を揺する嬌声。
暫くじゃれあった後にふたりはあっさりと去っていった。

もう出て行っても大丈夫なのに、立ち上がれない。
ずっとしゃがみ込んでいたから、きっと足が痺れてしまったんだろう。

痺れたのは、足だけかな。
胸がジンジンするのは、なんでだろう。
他の場所も、麻痺しちゃったのかな。


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