第3章 Sweets in the rain(紫原敦)
なんなの?
なんなの?
毎日ひたすらに仕事を頑張って、やっと訪れた休みにこの仕打ち。
踏んだり蹴ったり?
泣きっ面に蜂?
一体私が何をしたって言うのよー!
車内で15分近くカンヅメになった後、電車は次の駅に向けて走り出した。
雨は先程よりもずっと強くなってる。
次の駅って言ったって、最寄駅までにはまだだいぶある。
歩くのは難しい距離だし、何より突然の雨で傘すらない私がその選択肢を選ぶことは出来ない。
とりあえず定期圏内だし、改札出て時間潰せる所を探してみるかぁ……。
前向きになった気分はバッキリとへし折られ、自分でも分かるくらいに肩を落として電車を降りた。
運悪く、停車した駅は繁華街とは程遠い住宅地の中にあった。
一応駅前にはチェーン店のカフェやファーストフード店が立ち並んでいるけれど、そのどれもが店の外にまで行列を作っている。
とてもこんな状態で並ぶ気持ちにはなれず、改札横のコンビニで、温かい飲み物を買おうと決めた。
とにかく寒い。
今年は例年よりも気温が低いと天気予報のお兄さんが言っていた。
夏には、今年は暖冬になるとか言ってたくせに。
ホットのペットボトルでも買って、電車が動くのを待とう。
そう思って足を踏み入れたコンビニで、信じられない光景を目にした。
ううん、実際には、脳が認識する前に、反射的にコンビニの外へと走り出していた。
今、今のは一体、なんだった?
誰、だった?
見間違えるわけがない。
4年も一緒に居たんだもの。
おまけに、さっきまで一緒に居たんだもの。
こだわりの、イタリア製の1点物のスーツ。
そう、見間違えるわけがない。
さっき、別れたばかりの彼がそこに居た。
勿論、ここは彼の住むマンションの最寄駅じゃない。
腕を組みながら楽しそうにお喋りしていた彼女の、家の近所なんだろう。
頭が真っ白なまま建物の陰に身を寄せていると、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「うわ、雨本降りになってんじゃん」
「ほらぁ、あんなに悩むからだよー」
ふたりとも、弾むような声。
取り巻く雰囲気は、恋人同士のそれだ。