第13章 Mic check!(黄瀬涼太)
「……んー、できたっ! 全然勝負にならなかったぁ〜」
ダイニングテーブルで行われた謎の大会は、私の大敗で終わった。
終わるまで待っていてくれた涼太の優しさよ。
「いやいや、十分速いっスよ。ってことは……キスが上手くなったってことっスかね?」
「……き?」
キ、
ス?
「さくらんぼの茎結べると、キスが上手いって言うじゃないスか」
「あー……そんな、うん、あった、かも?」
うん、あったよね、あったあった。
よく言ったよね。うん、学生時代にもそんな話をした気がするよ?
「してみる?」
「……」
突然向けられた色気に、口は開いているのに声帯の機能ごと引っこ抜かれたみたいに声が出ない。
「ぷ、なに固まってんの? 一応オレたち夫婦なんスけど」
「涼太、さん、は、もう少し自分の破壊力を知った方がいいと思う……」
席を立った涼太が覗き込むようにして顔を近づけてくる。
思わず、瞼を下ろしてしまった。
「っ、ん」
舌以前に、唇が触れ合うところからもう、全く余裕がなくなる。
上唇に触れたと思ったら離れて、今度は下唇を喰まれて……戯れのようなほんのささやかな接触が、身体の奥底を揺り動かして、熱を生む。
なんとか瞼を上げたけれど、すぐにまた快感で閉じてしまう。
狭くなった視界の中央に、怪しく光る琥珀色の瞳が映った。
そうだ、涼太は分かってる。
自分の魅力も、私が弱いところも、全部。
そして、このひとの愛の大きさに、いつも驚く。
私は、どのくらい返せているんだろう。
侵入してきた彼に応えようと必死に舌を動かすけど、そこに自分の意思は乗せられてなくて、ただただ涼太の動きを受け止めるしか出来ない。
とにかく、気持ちいい。
キスが深くなっていく頃には、私も立ち上がって縋り付くように背中に腕を回していた。涼太も鍛えられた腕を腰に回してくれた。
出来るだけ体重をかけないようにと思うのに、腰にも足にも力が入らない。
骨が溶けてしまったみたいだ。