第13章 Mic check!(黄瀬涼太)
「いいっスね、食べよ。コーヒーはオレが淹れるから」
「私やるよ、休んでて」
「ううん、オレが淹れたい気分なんス。やらせて」
「そう……? じゃあ、お願いします……」
涼太は結構凝り性で、時間がある時には豆を挽くところから始めたりするけど、今日は流石に挽いてあるものを使うようだ。
先日挽いた中細挽きの豆が入っているキャニスターとペーパーを棚から出している。
とりあえずさくらんぼを洗ってドリップポットを火にかけるところだけやって、キッチンを離れる事にした。
抽出する時に入れるお湯にはコツがあって、ただ注げば良いというものではなく、結構集中が必要になる。今の涼太にはちょうどいい気分転換になるのかもしれない。
複数回に分けて注ぐから、少し時間を置いてからキッチンへ戻った。
「わー、良い香り」
コーヒーアロマって本当に癒される。
長女のつわりの時にはダメだったけれど、普段は大好きな香りだ。
「ミルク入れる?」
「うん、後で少し入れようかな」
「オッケー」
「ありがとう」
やっぱり最初は純粋にコーヒーを味わいたい。
涼太は冷蔵庫から出した牛乳を、ミルクピッチャーに注いでトレーに乗せた。
「いただきまーす。……んん、美味しい。涼太が淹れてくれたのって味が全然違う」
ブラックでも、するりと飲めてしまう。
雑味やえぐ味が全く出ていない、コーヒー本来の味だ。
「そうスか? みわが淹れてくれんのも美味しいっスけど」
「ううん、涼太が淹れてくれると余計な味が全然しないの。涼太のコーヒー大好き」
今までそんなにコーヒーを好んで飲むということはしなかったんだけれど、涼太が入れてくれたコーヒーをきっかけにコーヒーが好きになって、飲みたいなって思うようになった。
すごく愛情のこもった一杯の影響なんだと思う。