第13章 Mic check!(黄瀬涼太)
『なんかどっかで読んだけど、夫婦は日常生活が前戯ってホントその通りだと思うっスわ。
ロクに協力もしないでずっとセックスのことだけ考えてる夫なんて、捨てられても文句言えないっスよね? 奥さんと仲良くしたいなら、まずは信頼されるようになる事からじゃないスか?』
日常生活が前戯、な、なんという言葉だ。
……でも、なんとなく分かるかも。
出産前と決定的に違うのはそこかもしれない。
『しかもこれ、ごちゃごちゃ言ってるけど結局アプリで浮気してるんスよね?
人生で恐らくトップクラスに大変な時期に、パートナーが協力もしてくれず、更に裏切られてると知ったら奥さんはどれほど絶望するっスかね』
コメント欄は、混沌を極めている。
【つかこのモラ夫、浮気までしてる癖になんでこんな偉そーなの? 奥さんのために離婚してあげて欲しい】
【男性側からこう発信してくれるってありがたい】
【まじうちの旦那に見せたい。黄瀬涼太の爪の垢煎じて飲め。私も飲みたいけど】
【こんなのブチギレて無視してもいい質問なのに、真摯に答えてて神すぎない?】
……なんか、なんか、辛い。
今日、なんの配信だか分かってるよね?
涼太の、涼太の大切なお誕生の記念なんだよ。
私がこんな風に思うのは正しくないのかもしれないけど、もっと、もっと、幸せそうな涼太が見たいよ。
『マジで、一回奥さんとちゃんと話したほうがいいっスよ。オレから言えるのはこれくらいかな』
バチンとウインクして、抽選画面を閉じた。
【マジで優しすぎる。笑顔で対応できるの大人】
【ほんとー、大人の余裕すごい】
落ち着いている涼太を称賛するコメントが次々流れてくるけれど……この表情の裏側、涼太には余裕があるわけじゃなくて、むしろ……