第13章 Mic check!(黄瀬涼太)
『まずひとつめ。【顔がいいだけでここまで金稼いで羨ましいです。運が良いんですね】
ぶ、しょっぱなからこれっスか!?』
「……ひどい」
なんでこんなアンチコメントをわざわざ送ってくるんだろう。
有名な人になら、何を言ってもいいと思っているの?
傷つかないと、思ってるの?
案の定、コメント欄がブーイングで荒れ始める。そりゃそうだよね。ここはファンが集まっている場所なんだから。
画面の中の涼太は、笑顔のまま特に動揺した雰囲気はない。
『そう、オレめっちゃくちゃ運がいいんスよね。前世で徳積みまくったのかも? この投稿者さんも、来世はいい人生になるといいっスね』
すごい……涼太のそのひとことで、コメント欄が一気に沈静化した。
決して良い気持ちはしていないだろうに、嫌な表情もせず。
……いや、冷たい笑顔というか、心底人を軽蔑してる時の視線だ。背筋が寒くなる。
彼を昔から知ってる人なら、分かる筈。
『あんま嬉しくない質問だったけど、やらせじゃないことを証明できて良かったかも。
次いくっスよ〜。
【お誕生日おめでとうございます! どうしてお誕生日配信はウルチャモードをONにしないんですか? 貢がせてください】
あー、そっスね……めちゃくちゃありがたいんスけど、モメゴトになるのも嫌だし、お気持ちだけ頂戴しとこって決めたんスわ。そのお金で美味しいものでも食べて。いつもありがと』
"ウルチャ"というのは"ウルトラチャット"の略称で、所謂投げ銭モードのこと。リスナーがチャットとあわせて、配信者に直接お金をプレゼントする行為。
配信自体、再生数に応じて収益が出るようになってるんだけど、それとは別に、文字通り投げ銭するシステムなのである。(とはいえ、再生数の収益と同じようにサイト側に何割か持っていかれてしまうけれども)
去年までは普段の配信だけではなく、お誕生日配信もウルチャONに設定してあったんだけど、投げ銭と共に送れるメッセージを読み上げるだけで2時間近くかかってしまったし、金額に応じて入力できる文字数制限が決まっているからか、SNSやチャット内のリスナー同士での小競り合いにも繋がってしまっていた。
それにいちいち対策を講じる手間をかけるなら、いっそのことOFFにしてしまおうというのが涼太が出した結論らしい。
