第11章 thank you for everything(黄瀬涼太)
「ただいま〜」
玄関を開けると同時に聞こえる『おかえりーー!』の声と、駆け寄ってくる姿は今日は見当たらない。
子ども達は今日、実家で母親と姉達に遊んでもらっている。
特に何があった訳でもないけど、たまたま姉の帰省タイミングで甥と姪と遊びたいということで、預かってくれることになったのだった。
今朝、実家の車で迎えに来て貰い、ウキウキと出かけて行く写真がみわから送られて来た。
以前はみわが少しでも離れると大泣きだったのに、成長したものである。
スリッパの音に続いて、リビングのドアが開いた。
「おかえりなさい! ……え」
「ん? どうかした?」
エプロン姿のみわは、オレを見るなり眉を顰めた。
「涼太、ちょっと熱っぽい?」
「……なんで?」
「体調良くなさそうだなって……顔色あんまり良くないよ」
そんなの、今日誰にも言われなかった。
そう言われてみれば、撮影の後半から少し身体が火照っている感じがした。
テンションが上がってるだけと思って気にも留めていなかったのだが。
「なんだろ、イベント終わって気が抜けたんスかね?」
「ちょっと熱測ってみて」
「いや、そんなにないと思うっスよ」
「いいから、測って!」
こういう時のみわには逆らえない。
ピピピと腋の下から流れた電子音と共に確認した小さな窓には、37.9℃と表示されている。
「……お、おお……」
数値を見ると急に寒気がしてくるのは何故だろう。
インフルエンザにかかった時よりはだいぶ低いものの、普段健康優良児すぎて、発熱に慣れてない。
「疲れが出たんだよ、最近ずっと忙しかったし……。食欲ある?」
「あるある。なんにも悪いとこないんスよ。たまに出る知恵熱っしょ」
熱出るほど何も考えてねーだろ、と笠松センパイにどつかれた昔を思い出してちょっと笑った。