第11章 thank you for everything(黄瀬涼太)
「今日もすっごい良かったよ! いよいよ貫禄が出てきたねえ」
「さすがにもうこの企画も10年近いっスもんね」
毎年、誕生日が近くなると様々な衣装を着せられるこの催しにもすっかり慣れた。
今日は受注販売のグッズ用の撮影をした後に、イベント会場でファンの子と並んで写真撮影をするという定例イベントである。
スタッフもいつもの顔触れという感じで、この現場に来るとなんとなくホッとする。
「どんな格好しても似合うよね〜、この間SNSで歴代人気衣装ランキングつけられてるの見たよ」
「私は黒いスーツが一番好きだったかも」
「あーあれ良かったね、撮影中に裾がほつれちゃってさ……」
「黄瀬君がうまく隠してくれてたから全然気づかなかったんだよね」
「私は白いスーツ良かったと思うなぁ。アドリブの指ハートにスタッフ皆撃ち抜かれたよね」
「俺はアンティークの衣装好きだったけどな」
「懐かしい! 撮影の日大雨だったよね」
皆、よく覚えてくれてるな。
正直、細かいところまで鮮明には覚えてない。
年々、時が経つのが早く感じる。
あっという間に一日が過ぎ、気がつけば一年が過ぎていってしまうのだ。
「今や黄瀬涼太をこんな間近で見られるのはこのイベントくらいだもんねえ。10年前にはこんな大スターになるなんて予想も出来なかっ……いや、してたか」
「普通に学生時代から輝いてたよね」
「確かに!」
「これからも皆、応援してるよ!」
「ありがとうございます!」
お祝いしてもらった時間はあったものの、それを入れても今日は早めに帰れそうだ。
車のキーとボストンバッグを回収し、花束とドーナツを抱えて駐車場へ急いだ。