第11章 thank you for everything(黄瀬涼太)
今日の仕事は全部終わって、さあ帰ろうという時になってスタッフの皆に呼び出され、再びスタジオへと舞い戻って来た。
「黄瀬君、お疲れ様! 帰るところをごめんね」
「まだ何か残ってたっスか?」
「じゃーん、お誕生日おめでとう!」
ガラガラと手押しワゴンに乗せられて来たのは、オレの顔がデコレーションされているスクエア型のケーキだった。写真集の表紙になった写真の顔だ。
「すっげー! ありがとうございます!」
「健康に気をつけて一年過ごしてね」
イエローのトルコキキョウのアレンジメント花束には、黄瀬君お誕生日おめでとうと書かれたカードが刺さっている。
みわが好きな色合いだ。
家に飾ってある花は、圧倒的に黄色が多い。
ダイニングに飾ろうか。
結婚式以来の、でっかいケーキにナイフを入れる儀式。
あらゆる角度から撮られ、切ったケーキはひと切れずつ皆で食べた。
クリームがしつこくなくあっさりな甘さで、めちゃくちゃ美味い。
周りに乗ってるフルーツも新鮮なものばかりだ。
どこのお店だろう、後で聞いておこう。
今度お土産に買って帰りたい。
「あとこれ、いっぱいあるからご家族の分も持って帰って!」
「いいんスか? やった」
撮影スタジオの端にある机の上に広げられた色とりどりのドーナツの中から、家族の皆が好きなものをピックアップして箱に詰めた。
今年はドーナツがテーマだったから、協賛企業から差し入れをたんまりといただいたらしい。
懐かしいな、練習帰りに海常の皆でドーナツ屋にも行ったっけ。
あの頃は学校にバスケにと多忙なつもりで生きていたけど、大人になった今なら分かる。
学生時代は、楽だった。
なんだかんだ今よりずっと時間に余裕があったし、何より若さがあった。
そんな事考えるなんて、自分もトシ取ったなあなんて苦笑しながら箱を閉じた。