第10章 Change……!?(黄瀬涼太)
サインをお願いされなくて本当に良かった。
涼太のサインは勿論知っているけれど、今の私が書いたらきっと筆跡が異なって偽物のようになってしまうだろう。
顔を赤くして何度もお辞儀してくださり、ファンの方は去っていった。
しかしそこからが大変で、近くで見ていたらしい数名に取り囲まれてしまったのだった。
「た……ただい、ま」
涼太って、物凄く大変なのだと実感した。
少し外を歩いただけで声を掛けられたり写真を撮られたり。
失礼な対応は出来ないからと相手をしてしまうと際限なくなってしまったり。
これは、神経が擦り減る……。
「おか……えり、みわ」
ベッドに横たわった涼太は、息も絶え絶えといった様相で。
いつも彼の前でこんな顔をしているんだろうかと絶望しそうなほど、その顔は真っ白だ。
「痛いの、どう?」
「うん……今は楽になったっス。でもダルくてなんにもしたくない感じ」
普段精力的な涼太から聞き慣れない言葉ばかりが飛び出すもので、つい笑ってしまう。
私は毎月の事だから慣れっこだけれど、人生初の経験となれば辛いよね。
「もっとさ……入れ替わったとか言ったらもうちょっとエッチなラッキーがあるものかと思うじゃないスか……まさかこんな血祭りに遭うなんて……」
「血祭り」
目が合って、ふたりで笑った。
「はー、一度でいいから、女の子がどんな風にエッチで気持ち良いのか体験してみたかったんスけどねえ」
「え……でもそれって、私が私とするってことだよね……?」
「……そうっスね……」
正直、私だって興味がないことはない。
涼太ってどんな感じでしてるんだろうって。
でも、自分の目の前に居る自分とそういう行為が出来るかと考えたら……
「ちょっとそれは……無理かなぁ……」
「オレも自分にヤられるのはちょっと」
また、ふたりで笑った。
とんでもない事態のはずなのに、なんだか笑えてくる。
彼と居ると、些細なことに思えてしまう不思議だ。