第9章 Some things never change(黄瀬涼太)
「つ、疲れた……」
息子が何故か漏らしたところを雑巾で拭いて、拭いて待たせているうちに娘が泣いて、娘をあやしているうちに息子が泣いて、ナニコレ?
息子を洗って、終わったから湯船に入って待ってて貰って、次は娘……だけど溺れたらシャレにならないから息子から目は離せない。
ハラハラしながら娘も洗い終わり、少し湯船に抱っこしながら入れて、さあこれからオレも髪を洗って……
「パパ、でるー」
「え?」
「あついからでるー」
「え? もう? パパ髪洗うからちょっと待ってくんないスか」
「でるー!」
「待っ……」
待ってハゲそう。
これもしかして、【子どもを先に風呂に入れて、後で自分だけ入る】が正解だったのでは?
いや、一人で入ってる間に赤子が泣き出したらどうすんだ?
もはや虚無モードになりつつあるところに……浴室のドアのガラスがコンコンと鳴った。
「あ、ママだー!」
「ごめんね、いっぱい寝ちゃって!」
「あついからでるー!」
「はいはい、タオルと着替え出してあるよ」
ドアの隙間から覗いたその姿、マジで誇大表現一切ナシで、女神かと思った。菩薩か?
オレは宗教にキョーミがないからなんでもいいんだけど、みわ教なら入信したい。いや、します。
「涼太ありがとうね、あとはやるからゆっくり入って」
みわはそう言って娘を受け取り、息子に声を掛けながら二人をちゃちゃっと着替えさせ、その場を去った。
その手際の良さたるや。
シンとしてちょっと寂しくなったバスルームで足を伸ばして、大きく息を吸った。
一日……いや、半日か?
たったこれだけの時間だけど、どれだけ大変なのかを身をもって知った。
可愛いだけじゃない、自我がある生き物を育てるという仕事の大変さ。
そして大変さの割に、達成感みたいなものがないからモチベーションの維持が困難だ。
こんなの毎日続いたら、擦り減る。
みわの疲れた顔を見たら火を見るより明らかなんだけれど。