第9章 Some things never change(黄瀬涼太)
「みわ、お疲れサマ」
「あっ、涼太、おかえりなさい」
覗き込んで来た涼太にそう返してから振り返ると、ダイニングテーブルに仕事用のノートパソコンが出してあるのが見える。
メールチェックをしていたんだろうか。
「おっぱい飲んでる姿って、ホントめっちゃくちゃ可愛くて癒されるっスわ……」
「ふふ。ね、可愛いよねえ」
最近は飲みながら寝ちゃう事も多くて、母子の束の間の癒しの時間だ。
「体調は大丈夫なんスか? なんかすげー勢いで吸われてるっスけど……」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと貧血なくらいで」
「母乳は血から作られてんスもんね……鉄分取んないと」
娘は少し飲んだらまた寝てしまった。
昨晩ずっと眠れずにいた反動かもしれない。
「みわ、朝もなんも食べてないんじゃないスか? パスタ作っちゃったんスけど食べれる?」
「えっ、ありがとう! ……ごめんね、準備して貰っちゃって。うっかり寝ちゃって」
「いいっスよ、すぐ食べれるようにしてあるから、食べたら寝てな」
「もう大丈夫。寝すぎってくらい寝たよ……わっ、わ、すごい、美味しそう!」
テーブルの上には、美味しそうなほうれん草とサーモンのパスタが。サラダにスープまで添えてある。
かたや私はボサボサの髪に化粧もしていない顔。
絶対寝不足が顔に出てるだろうし、草臥れた姿を見て幻滅しないだろうか。
こんな風に夫に対して思うのは、非常に珍しい事なのだと知った。主にママさん友達からの情報だけれども。
うちは、会える時間が極端に少ないからそんな風に思うのかなあ?
結婚前と後、出産前と後でも涼太との関係はさほど変わらない。
強いて言えば、恋人同士にプラスして、育児の戦友みたいな感覚も出来たかな……一言では言い表せない。
でも、昔も今もずっとドキドキするし、ずっと大好き。
色々な意見があるけれど、これが偽りのない私の気持ちだから、誰に何を言われてもあんまり気にならない。