第9章 Some things never change(黄瀬涼太)
ほにゃ……という小さな声で目が覚めた。
いけない、ウトウトしてしまっていたらしい。
腕の中の娘が、お口を動かしながら泣き始めたところだった。
「ごめんね、ママ寝ちゃってた。もうお腹空いたのかな?」
さっき飲んだばかりなのにな、なんて思って時計を見上げると……
……え!? もうこんな時間!?
さっき、幼稚園に行くふたりを見送ったのは8時半頃だった筈。
それなのに、リビングの時計の針は正午を指していた。
お腹が空いたらしい娘は、また乳首に吸い付いた。
さっきも授乳したまま一緒にぐっすり眠ってしまっていたようだ。
張った胸は楽になっていくけれど……頭の中で必死に時間を計算する。
息子の幼稚園は14時半まで。
午前中に買い物に出かけたら間に合うと計算していたのに、うっかり眠ってしまった。失敗した。
息子の時よりは勝手も分かっているし、当時よりは楽な気持ちで育児出来ているけれど、睡眠不足にだけはどうにも勝てそうにない。
授乳を終えてすぐ出発するにしても、家を出れるまでにまだ暫くかかるだろう。
お買い物をしてお迎えに行って、公園に寄ってから帰って来て、宅配の食材を受け取って、お風呂に入って、ご飯を食べさせて……どう頑張っても無理がある。
どうしよう。
そっと授乳ケープをめくって娘の姿を確認しながら、動きの鈍い頭をフル回転させる。
……授乳ケープをめくって?
あれ?
私、ケープなんてかけてたっけ?
……か け て な い。
誰かがかけてくれたってことだよね。
誰かって、ひとりしかいない。
……胸を丸出しにして寝落ちているのを見兼ねて、涼太が……。
幼稚園へ送って行って帰って来たら嫁がアホヅラで乳出して寝ていたなんて……あああああああ、だらしない所ばっかり見せてしまって、もう救いようがない。
久しぶりに帰って来たというのに家の中も散らかっているし、朝ご飯も大したものを出せなかった。
ひたすら、自己嫌悪……。