第3章 ひやっこい薄膜。
「戻って来ねぇ人らって、海を捨てたんだって思ってたのに……」
困惑が隠しきれない光と、まなかの反応は対照的だった。
「いじわるだっ!!」
どこかに怒りをぶつけるように言い放ったその姿に、今度は私達が驚かされる番だった。
「まなか…?」
「大切な人と家族になりたいって、全然悪いことじゃないのにっ!素敵なことなのに……」
まなかの感じたこと、言いたいこと。全部がその言葉に込められていた。
「海から追い出しちゃうなんて!!」
「それって……」
だからきっと光は、そこからまなかの未来を思い描いた。
「自分も地上の男とくっつきたいっえ考えてるのか?」
眉に皺を寄せた光がそう問いかけると、まなかは顔を赤く染めて焦った様子で光の言葉を否定する。
「へっ、やだっ!!エッチなこと言うひぃくんは嫌いだよ!!」
「俺だって!エッチなこと言うまなかは嫌いだっての!!」
どこにそう言う要素があったかとか、今は問題じゃなかった。
「私っ、言ってないよぉ!」
ただ、まなかにそんな意識は全然無くて。
「言ってる!!」
光が必要以上に、まなかと紡のことを意識してしまっているだけ。
「なんか最近、気持ちわりぃんだよお前っ!!」
その光が放った、勢いだけの一言がこの場の空気を凍り付かせる。
一瞬、呆然としていたまなかの瞳に涙が浮かび始めて、光もやっと、ことの大きさに気付いたはずだった。
もちろん私も間に割って入れなかったことに後悔はある。
けれど少し遅く、私やちさきが声をかける前に、まなかはすぐ傍の道路塀を越えて海に飛び込んで行ってしまった。
「待ってまなかっ!」
ちさきがまなかを追いかけて塀に駆け寄り、怒りをあらわにした表情で光の方を振り返る。
「気持ちはわかるけど!あれじゃまなか可哀相だよっ」
「……わかるってなんだよ」
ぼそりと小さく呟かれたそれに、ちさきが少し首を傾げる。
けれど、私には何となくその先の言葉がわかった気がした。
「なんだよお前、いっつも大人ぶってさ……、何でも知った風で!」
これ以上は私も聞いていたくない。
「お前に俺の何がわかるんだよ!!」
そんな風に思っても、ちさきが傷付くことがわかっていても、私は光を止めることが出来なかった。
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