第4章 海のいいつたえ
いくら少し前まで通っていたとは言え、夜の校舎はなんとも言えない雰囲気があって少し近寄り難い。
怖いもの知らずな光は、他に集まる場所がないこともあって、よく校舎をたまり場のように使っていた。
まぁ、使うのなんて私たち五人しか居なかったのだけど。
中学校の敷地に入ると、地面を覆い隠してしまう程降り積もったぬくみ雪の上に、まだ新しい足跡が幾つも残っていた。
それは真っ直ぐに校舎の玄関口へ向かって伸びている。
『相変わらずこわいなぁ……うろこ様の千里眼かっこ仮』
そのあとを追いかけて、玄関の扉を押すとぎぃと錆び付いたような音がした。
何だか悪いことをしているような気もするけど、鍵を掛けていない大人側にも問題があるということにしておきたい。
外から入ってくる光を頼りに、薄暗い廊下を歩いていると、光と要の姿を見つけた。
『光、要!』
私の声が届いたのか、二人がこちらに顔を向ける。
「真依!」
「よくここがわかったね」
そんな言葉を受けながら、二人の所まで駆けた。
『うろこ様がここじゃないかって』
「まじかよ……」
「うろこ様、そういうとこあるよね」
呆れ顔の光と、ひき気味の要と目を合わせて少し笑った。
すると、どこからか一定のリズムを刻む音が聴こえて来た。
「あいつら、居ないと思ったら音楽室かよ」
『まなかとちさき?』
「うん」
一人音楽室の方へ歩き出す光のあとを要と追いかける。
「真依、明日、あかりの男絞めるからな」
唐突に告げられた言葉をそのまま受け取るけれど、理解が追い付かず聞き返す。
『ぇ、どういう展開?』
「詳しいことは帰りながら話す」
「でもそんなに上手く行くかな?」
満足のいく答えをもらえないまま、要の呟きを聞いた。
「あの車、漁協のマーク入ってたろ。逃げようったって…」
意外と見るとこ見ている光に驚いていると、光の声を聞き慣れた声が遮った。
「でも、好きになったら、お付き合いしたいって思うのかな」
それは、音楽室の中から漏れるまなかの声だった。
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