第3章 ひやっこい薄膜。
「彼氏、なのかな?」
叫び出しそうだったまなかを止めに入ったちさきが、どこかぼんやりとした声で呟いた。
『まぁ、じゃなきゃしないよね、キス』
私のキス発言に、まなかがさらに顔を赤くする。
「あいつ!男居るなんてひとっ言も言ってなかったくせにっ!!しかも地上の男だあぁぁあっ!!?」
ギリギリと歯を食いしばっている光の隣で、要が後ろ頭に手を当てて言った。
「あかりさん、そろそろ適齢期だもんね」
適齢期なんて言葉、よくさらっと出て来るなぁ、なんてどうでもいいことが頭に浮かぶ。
それから、私を置いて、誰とも知らない男の人と一緒になった、あの人のことも。
「はぁっ?地上の奴となんて上手くいかねぇよ!結婚したってどうせ出戻って来るだろっ!!」
なんの気なしに言っただろう光の言葉を拾って、要は少し呆れたように言う。
「それは無理でしょ」
そう。出戻る、なんてことは不可能な話なのだ。
「無理っ?なんでだよ?」
「無理だよっ!だってあかりさん、いいお母さんになりそうだもん!出戻ったりなんてしないよっ!!」
そう力強く言い切るまなかの言いたいこともわかるけれど、要が言いたいのも、私が知っている現実も、もっと残酷なものだ。
『そうじゃないんだよ。まなか』
私と視線を合わせた要は少し言いづらそうにしながら、続きを話す。
「地上の人間と結ばれたら、村から追放されちゃうんだ」
「「えっ……?」」
要の言ったことが信じられないとでも言うように、まなかと光は唖然としていたけれど、すぐに語気を強めて言い放った。
「追放って!?」
「なんだよその物騒ワードっ!!」
「僕に怒鳴られても……」
『結構前からそう言う決まりになってるんだよ』
「聞いてねぇぞ、そんなの!!」
困ったように呟く要を見かねて私が口を開くと、光の視線がこちらに向いた。
きっと私の母親のことも含めて、知らなかったんだろう。
「でも、駄菓子屋のさつきさんも、原さんとこの康二兄さんも、地上に出てったまま戻って来ないでしょう?」
『もちろん、私の母親もその対象だよ』
まなかは私とちさきの言葉を聞いて、ぼんやりと納得したような溜息を漏らした。
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