第3章 ひやっこい薄膜。
海沿いの大きな道路を歩いていると、高く昇っていた日が落ちて、もう夕方と言える時間になっていた。
昼間よりは過ごしやすいけれど、やっぱり暑いものは暑い。
何だかんだ、ちゃんと五人揃って帰るのは久しぶりかもしれない。
前を歩くまなかとちさきが二人でおしゃべりしていて、私がその少し後ろから話に加わるのがいつものお決まりの並びだ。
光と要は私達の後ろから適当について来る。
「先生、海っ子達って呼んでたねっ!」
「あぁそれ、ちょっと可愛かった!」
二人が楽しそうに話しているのを聞いているだけでも、何だか私まで楽しくて笑みが溢れる。
でも、“海っ子”って呼ばれ方は少し照れ臭かった。
「あれ……、あかりさんじゃない?」
背後から聞こえて来た、ひとり言のような要の呟きで自然と足を止める。
「ん?……あかり??」
要の視線を追おうと思い後ろに振り返ると、光も気になったのか私と同じように足を止めていた。
そして二人して、要の視線の先を見つめると、少し先の防波堤の上を一台の車が走っていた。
車は防波堤の先端で止まり、一人の女の人が降りて来たのが見えた。
少し遠いし、逆光になっていてわかりづらいけれど、髪色や服装なんかで何となくあかりさんだとわかる。
あかりさんは車から降りてすぐに、車の反対側、運転席の方へと回り込み、開いた窓の縁に手をかけた。
そして窓から顔を出そうとしていた男の人の唇に、自分の唇をそっと押し付けた。
「なぁ゛っっ!!!」
「ひぇっ!!キ、キキ、キっ!!?」
「ダメっ!まなか!!」
現実でキスシーンを見たのなんて初めてだから、私も少なからず動揺していたとは思う。
けれど、それ以上に周りがうるさ過ぎて逆に冷静になる。
だからこの状況で一番気になっていたのは、私達以上に動揺していただろうあかりさんの彼氏さんのことだった。
危うく海に落ちるのではと思ってしまうような運転で、急いで帰って行ったあの人の方が心配だ。
帰り道で事故とかしなきゃいいけど、なんて場違いなことを思っていたら、名残惜しそうに車が去っていくのを見ていたあかりさんが海へと飛び込むのが見えた。
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