第3章 ひやっこい薄膜。
「そうそう!おじさんとお兄さんの中間くらいだよ」
絶賛呪われ中と言うことになっているまなかが、より詳しく説明をしてくれた。
「そうか。本当に居るんだ……、じゃあぬくみ雪って?塩が雪みたいに降って来るって」
作業の手を止めた紡は、いつもよりも幾らか瞳を輝かせて言葉を重ねた。
「御霊火(ミタマビ)って、海の中でも燃えるなら、逆にどうやって消すんだ?」
自分の知り得ること、そこから湧き出る疑問を吐き出すように、紡は一気にまくし立てた。
じっとそれを聞いていた私だけでなく、みんなが紡の言葉に驚かされているのが見て取れる。
「紡くんって、すごく詳しいんだね!汐鹿生のこと」
『だね。御霊火のことなんか、私今まで考えたことないよ』
だからこそ、紡が何故こんなにも海村に興味を持って、その知識を得ているのかが気になるのだ。
「よく晴れた空の日には、光の屈折とかで……村が薄ら透けて見えることがある」
「波の間に白い屋根が、光を反射して、波の音みたいに、遠く…近く……、歌声が響いて来る」
私達の知らない、外から見た海村の景色を見逃さないでいてくれる人。
答えにはなっていないけれど、海村に思いを寄せて語られる言葉達だけで、十分伝わった気がした。
「俺は海の村、いいと思ってる」
そうはっきりと告げる紡の顔が、今まで見た中で一番やわらかく、微笑んでいるように見えて、ここまで汐鹿生を思ってくれる人も居るんだと、何だか嬉しくなる。
光も、まさか紡がそんなことを言うとは思っても見なかったみたいで、ぽかんとした顔で紡の方を見ていた。
「村のこと……、こんなに思ってくれる地上の人が居て、嬉しいね」
ちさきも私と同じように考えていたのか、近くに居た光に声を掛けているようだった。
その言葉が自分に向けられているのだと気付いた光は、はっとした表情で自分の手元に視線を移す。
「何がだよっ」
少し不機嫌を装って、照れ臭そうに呟いた光も、もう気付いているはずだった。
紡の優しさと温かさ。
だから、それに惹かれるまなかを、今も見ている。
優しげな笑みを浮かべて、紡を見つめるまなかに気付いてしまった光が何を思ったのか。私にはわからなかった。
誰かが誰かを想って、誰かも誰かを想って、そんな一方通行の想いを、きっと私だけが知っていた。
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