第3章 ひやっこい薄膜。
帰り支度を済ませた私達は、先生に連れられて校舎裏の森に来ていた。
「じゃあ早速だけど、材料を集めるところから始めようかぁ」
そう言って連れて来られた場所は、ちょうど昨日まなかを探しに来た辺りだった。
私とまなかとちさきは、おじょし様の胴部分のかさ増しに使えそうな、細くて真っ直ぐな枝を探す。
光と要と紡は、骨組みに使う太くてしっかりした枝を切り出して、それを切りそろえるという役割で動いていた。
「どうして俺達がっ!地上の奴らの仕事だろっ!!」
木工室から拝借して来た鋸を器用に使い、枝の邪魔な部分を切り落としながらも、文句を言う光。
「だったら立候補なんてしなければ良かったのに……」
それに対して、近くで聞いていたちさきが呆れたように笑ってそう零す。
「地上の奴らなんて全然わかってねぇからなぁ!俺達が見張ってやらねえとっ」
口ではそんな風に言いながらも、次の木に手を伸ばして作業は怠らない光に思わず笑ってしまう。
『ふっ……、見張るだけって訳じゃないんだ』
拾い集めた枝を抱え直して揶揄うように呟くと、すぐに「うるせぇ!」とだけ返された。
「どうしておじょし作りやろうって?」
要が不意に落とした質問が、誰に向けられたものかは自然とわかった。
この中で一番に、おじょし様を作るのに賛成したのは紡だ。
「うちは漁師だから」
そう応えた紡の視線は、手元の枝と鋸に向けられたまま。作業の音が止むこともない。
「海のおかげで生きてるから。ちゃんとお礼のためにおふねひきしないと」
紡のそばに積み上がっていた枝を要が抱え、それに気付いた紡が視線を上げた。
「うろこ様って、本当に居るらしいね」
唐突な、けれど質問とはとれないような、確信を持っての言葉だった。
「え?うん」
紡と目が合ったのか、要がそれに小さく応える。
けれど応えた要も疑問に感じたんじゃないだろうか。
海村まで来れるはずもない陸の人間である紡が、何故あの人の名前を知っているのかと。
「ちょっと、エッチなおじさんだけど……」
『ちさき、おじさんなんて言ったら呪われるよ。あの人どこで聞いてるかわかんないから』
補足するように呟いたちさきの言葉に、私は気付くと口を挟んでいた。
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