第3章 ひやっこい薄膜。
あれから少しして、肩を落としたまなかが荷物を取りに家に帰り、私は汚れてしまった床の掃除をしてから、我が家である鳴波神社を後にした。
そこからは昨日と同じようにみんなで待ち合わせて地上に上がり、時々話をしながら学校までの道のりを歩く。
昨日は悠長に話している暇なんてなかったけど、今日は特に目立ったアクシデントもなく、すんなりと学校に着いた。
校舎に入ると、波中の制服を着ているせいか、視線を向けられることが多い気がした。
光はそんなこと気にもしていないみたいだけど、きっとまなかとちさきは違う。
ずんずん前を歩く光の後ろを、どこか不安げに歩く二人を見て、私と要は自然と顔を見合わせていた。
昨日初めて足を踏み入れた教室に着いても、やっぱりまだここが自分の居場所だって感じはしなかった。
あちこちで「おはよう」と言う言葉が飛び交う中で、私達四人に声をかけてくれる人が居ないのが少し寂しい。
けれど、教室の真ん中辺りで楽しそうに話をしている女の子達が目に入ると、そんな気持ちもどこかへ行ってしまった。
昨日まなかを見せ物にして笑ったことに対して、私は何か言う訳でも、声を荒げて怒る訳でもない。
だけど、許せるはずもなかった。
暗い気持ちのまま自分の机に鞄を置くと、一つ前の席に座って本を読んでいた紡がこちらを振り返る。
「おはよう」
変わらずの無表情で、けれど確かに言われたその言葉が無性に嬉しくて、気が付くと口角が上がっていた。
『おはよう、紡』
返事を聞いた紡はすぐに手元の本へと視線を戻し、私も椅子を引いてそこに腰を下ろす。
私も、先生が来るまで本でも読んでいよう。
机に鞄の中身を仕舞いながらそう考えていると、緊張した面持ちでこちらにやって来るまなかの姿が目に入った。
きゅっと口を引き結んで、もう何も居ない膝にタオルを巻いたまなかが向かったのは、私の一つ前の席。
「ぁ、あの!」
あの弱虫なまなかが、自分から誰かと関わろうとするなんて思ってもみなかった。
これは別にまなかを馬鹿にしているとかじゃなくて、長く付き合っているからこそ思う、純粋な感想だ。
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