第3章 ひやっこい薄膜。
「はぁあぁぁ……、なんてまぁ薄い酒じゃの、犬の小便じゃなこりゃぁ…」
社周りの掃き掃除を終え、板の間の掃き掃除をしているとそんな呟きが聞こえてきて、少し苛立ちを覚える。
元はと言えばあなたが飲み過ぎるから、一本の徳利に入れるお酒の割合が減り、その分お湯の量が増えていくんだと言ってしまいたい。
まぁそれも面倒なので、結局手を動かすことに専念していると、この時間にしては珍しく玄関が開かれた。
そちらに視線を移すと、そこそこ大きめの鍋を抱えたまなかが緊張した面持ちで立っていた。
『…まなか??』
「ちょうどえぇ……つまみが来たか」
うろこ様は嬉しそうに笑って身体を起こし、お酒片手に傍にあった肘置きに腕を置いて何も言わないまなかを見つめる。
「ぁ、あの…」
「どうした?」
ごくりと固唾を飲み、何やら気合を入れた表情でうろこ様を見つめたまなかは何を思ったか
「えい!」
手に持っていた鍋の中から芋を一つ掴んで、そのままうろこ様に向かって投げつけた。
「えいっ、えい、えい!」
ぽいぽいと投げられる煮物達は床へと転がり、この後の掃除のことを思うと溜息が漏れる。
しばらくそんな意味のわからない光景を眺めていると、投げられた煮物のうちの一つをうろこ様がぱしっと掴み取った。
彼はそれをおもむろに口に放り込んで呟く。
「向井戸のばばあの味じゃない…」
それを聞いていたまなかが、慌てた様子で応えた。
「わ、私が作りました!」
「ほおぉ?」
面白いものでも見つけたかのような表情で、じっとまなかを見つめていたうろこ様だったが
「うろこ様に失礼なことして、そのうえ!食べ物を粗末にしましたっ!!」
口をもごもごしながらまなかの話を聞いているうちに、その興味もなくなってしまったらしい。
「のろい…ますか?」
恐る恐る、けれどどこか期待の色を浮かべた表情でそんなことを聞くまなか。
その足にタオルは巻かれておらず、ぎょめんそうの影も形もない。
呪いは解けたようだけど、なんでまた、わざわざ呪われに来たのだろう。
しばらく考えるように動かなかったうろこ様が、呪ってやる気はないとでも言うように、床に転がる煮物をばくばくと口に入れる。
「ああぁぁぁっ‼」
それを見たまなかが悲痛な叫びを上げ、私はまたひとつ溜息を吐いた。
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