第2章 海と大地のまんなかに。
『やめてよ光っ!!』
私は光の腕を掴んで紡から引き離そうとするけど、その手は紡のシャツを掴んで離さない。
「ひぃくんやめてっ!!」
けれど、光を追いかけて来たまなかの掌が光の肩に乗ったところで、光の意識は紡から逸れた。
私の言葉には応えないのに、まなかの声には反応するのかと、少しの悔しさと虚しさが胸を締め付ける。
「紡くん!私とまーちゃんのこと助けてくれたんだよっ!?」
まなかがそう叫ぶと、光の掌から力が抜けていくのがわかった。
「紡くん……?」
まなかが何でそう呼んでいるのかわからなくても、それが誰の名前であるかさえわかれば、光が嫉妬するのは当たり前だった。
光の視線が不意にまなかの膝へと移り、そこに朝から巻いていたはずのタオルが無いことに気付くと、光は愕然としていた。
私と光にしか見せられないはずの呪いを、紡にも見せたのだとわかったから。
「っ……いくぞ!!」
次の瞬間、光はまなかの腕を乱暴に掴んで一人歩き出した。
それに引き摺られるような形で、不本意ながらまなかも歩き出す。
「ひぃくんまっ、待ってぇ!!」
こちらのことが気にかかるのか、まなかがちらちらとこちらを見て居るが、光に引っ張られているので足を止めることは出来なさそうだ。
紡のこともきっと、気にしている。
紡は何事も無かったかのように、自転車のハンドルを握って帰ろうとしていた。
その背中にまなかの分までと思い、なるべく笑顔で声をかける。
『今日は、本当にいろいろとありがとう』
紡の顔がゆるりとこちらを向き、例のごとく表情のないまま口を開く。
「いや、別に……見つけれてよかった」
紡が見つけてくれていなかったら村総出で私達を探していたかもしれない。
そんな大事にならなくて、本当に良かったと思う。
『うん、助かったよ』
少し離れた場所から大きく水の跳ねる音が聞こえて、二人が既に海に潜ったのだとわかる。
私もそろそろ帰らなくてはいけない。
『じゃあ、また明日』
「あぁ」
また素っ気なくそれだけが返って来たのを確認して、私もすぐそこに見えた海へと続く下り階段に向かって歩き出した。
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