第2章 海と大地のまんなかに。
夜の海はどことなく、昼の海より冷たいような気がする。
陽の光を通していない水は暗く、月明かりと村に点在する御霊火の光だけが頼りだ。
だからこんなにも、夜は気分が沈んでしまうんだろうか。
少し前を泳ぐ二人は手を繋いでいて、ふわふわと水を漂う姿は、いつも見ているはずなのにどこか違って見える。
これも全部、夜の冷たい海のせいなのかもしれない。
「ひぃくん、探してくれてたんだよね?……迷惑かけちゃってごめんね」
まなかの言葉に何も応えない光の背中を見つめていると、まなかが私に気付いてこちらを振り返る。
「まーちゃん!」
嬉しそうな顔で私の名前を呼ぶまなかを、今は見ていたくなかった。
まなかがどう思うか考える余裕もなく、私は彼女から目を逸らした。
何も知らずに光を苦しませて居るのはまなかなのに。
紡の言葉に、頬を撫でる掌に、照れていたくせに。
何で、まなかは何も思わず、光と手を繋いで居られるんだろう。
それが、まなかが光を“男の子”として見ていない証に思えて、嬉しいような悲しいような、よくわからない気持ちになる。
今まで、光の想いがまなかに伝わって、二人が笑っていてくれればそれでいいと思っていた。
「ぁ、お歌の練習してる……」
でも、それだけじゃ駄目なのかもしれない。
このままだとまなかは、紡を好きになってしまう。
まだ“好き”には成っていないけど、一歩一歩近付いて行って、いつかその想いに気付いてしまうような気がした。
それはきっとまなかにとってはいいことでも、光にとってはそうではないんだと思う。
でも、もしかしたら、光もまなかを応援するようになるのだろうか。
そんなことまで考えて、考えても答えなんて見つからないのに、と溜息が漏れた。
そして、不意に耳が拾った聞き馴染みのある歌に耳を傾ける。
おふねひきの時に歌う歌だった。
聞こえて来るのが男性の低い声ばかりなのは、船乗りが男の人の仕事だからかもしれない。
昔からの詩らしいから、そう言う所には気を遣っていそうだ。
これから、帰ってうろこ様のおつまみと自分の夕食を作ることを考えると、少し気が滅入る。
けれど、だんだんと近付いて来る鹿生の青く淡い光を見ていると、帰って来たと言う安心感が湧いてくるのだった。
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