第2章 海と大地のまんなかに。
なんだか、酷く嫌な夢を見ていたような気がする。
夢の内容は覚えていないのに、何故か嫌な感覚だけが残ることが時々ある。
今回のもきっとそれだ。
目を開けなくても、自分の身体が水に浸かっているのがわかった。
そのおかげか、呼吸が楽になっていることにも気が付く。
と同時に、自分が山の中で意識を飛ばしたこと、そして地面に倒れ込んだまなかのことも思い出した。
あれから自分は、まなかはどうなったのか。
山の中に居たはずの自分が、なぜ水の中に居るのか。
そんな何もわからない状況でおちおち寝ていられる訳がない。
少し重たい瞼を半ば強引に開くと、まず目に飛び込んできたのは、顔の下半分を水に浸けたまま眠りこけているまなかの姿だった。
『まなかっ!』
その表情に苦しそうな色が見えないことに安堵しながらも、身体は反射的に飛び起きていた。
そして、そのまま自分の周りに視線を巡らせる。
やはりと言うか、私達は見たことの無い場所に居た。
部屋全体が木造の、浴室だろうか。
湯船も木造りで、私とまなかはそこに溜められたたっぷりの水に浸かっている。
ほんのり塩の香りがするから、きっと私達を助けてくれた人が気を遣って入れてくれたんだろう。
陸の人にも、ちゃんといい人は居るんだ。
クラスメイト達を見て諦めかけていた思い、少しの嬉しさが胸にふつふつと湧いてくる。
「目が覚めたんだな」
どこかから投げかけられたその声は、何度か聞いた事のあるもののような気がした。
声の主を探して浴室の入口に目を向けた私は、文字通り固まってしまった。
そこに居たのが、今朝まなかと私を釣り上げて、放課後まなかを助けてくれた、あの男の子だったから。
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