第2章 海と大地のまんなかに。
鳥の鳴き声と、ぽかぽかとした暖かな日差し。
空を見上げた時にいつもあるはずの、水の膜がないこと。
それらからすぐに、ここが陸なのだとわかった。
けれど、私が今立っているのは知らない場所だ。
ジャングルジムに鉄棒、ブランコに砂場と、遊具も広さもそこそこある公園。
そして公園の周りを囲む様に、陸でしか御目に掛かれない桜が咲き誇っている。
淡い桃色が風に揺れてはらはらと落ちてくるのを見つめていると、砂場で遊んでいる子供が視界に映った。
赤いリボンで髪を二つに結った女の子と、青い帽子を被った男の子が、砂で大きな山を作っている。
二人の背中しか見えないけれど、時折話をしながら楽しそうにしているのを見ていると、何故か懐かしさが込み上げてきた。
私も昔は、こんな風に光達と遊んでいたのだろうか。
「真依〜〜!」
どこからか聞こえて来たその声に、ざわりと肌が粟立った。
もう何年も聞いていないけれど、聞き間違えるはずもない。
『あ!お母さん!』
こちらに振り向いた女の子の顔を見た瞬間、ひやりとしたものが背中を伝う。
嬉しそうな顔で、母親の元へと駆け出すその子は、
幼い頃の私だった。
あの人の所へ行っては駄目だと、私の横を通り過ぎようとする私に手を伸ばした。
けれど私の手は彼女の身体をすり抜け、宙をかく。
小さな私はにこにこしながらあの人の手を握り、砂場に残った男の子に手を振った。
この光景は何?夢、だろうか?
夢にしては鮮明なそれが、
見たことのないはずの桜の彩りが、
どうしても夢には思えなかった。
こんな、誰かと陸で遊んだ記憶なんて、私にはないのに。
もし、万が一そんなことがあったとしても、
あの男の子が光か要なら、一緒に帰るはずなのに。
どうして、
手を繋いで公園から出ていく私と、母であったあの人。
二人の間でゆらゆらと楽しげに揺れる掌に、目の前が滲んでいく。
何故、あのままでは居られなかったんだろう。
*