第2章 海と大地のまんなかに。
「まなか!」
呆然とその光景を見つめることしか出来なかった私の耳に、ちさきの焦ったような声が届いた。
その悲痛な色の声とは別に、未だに薄らと笑っているクラスメイト達の声も耳に入る。
けれど、それに一々腹を立てている暇なんてなかった。
『ちさきっ!!私はまなかを追いかけるから、光と要に説明して!!』
「ちょっ!真依!?」
ただ、今頃泣いているであろうまなかが心配で、ちさきの引き止める声も聞かずに走り出していた。
どこに居るかもわからないけれど、とにかく探すしかない。
靴箱の辺りにいた生徒に、泣きながら走って行く女の子を見なかったかと聞くと
「裏山の方へ走って行った」
と教えてくれたので、それを頼りに校舎の裏手に回ってみたが、そこにまなかの姿はない。
きっともっと奥に行ってしまったのだろう。
校舎裏の拓けた場所から、木と木の間、森に繋がる人の通れる道があった。
耳に馴染まない、ざわざわと葉の擦れる音が私の不安を煽る。
それでもこの先にまなかが居るかもしれないと思うと、進むしかなかった。
『まなかーーっ!!』
歩き慣れない山道を走りながら、時折名前を呼ぶけれど返事はない。
あれからどれくらい時間が経ったのか、どれくらい走っていたのか。
木々の合間から差し込んでくる日差しは朱色に変わっていた。
そして、走り続けていたせいだけではない息苦しさを感じていたその時、
「きゃあああぁ!!」
聞き慣れた声、それも悲鳴が聞こえてきた。
きっとここからそんなに遠くはないはずだ。
慌てて坂を駆け下りながら、必死でまなかの姿を探す。
『まなか!!まなかっ!!』
「まー……ちゃん…?」
小さく聞こえたその声を辿って行くと、少し先で倒れているまなかを見つけた。
『まなか!!大丈夫っ!!?』
起き上がろうとしているまなかに駆け寄って、身体を起こすのを手伝おうと彼女の腕に触れる。
『っ!!?』
すると、私の触れた所からパリパリと乾いた胞衣が剥がれ落ちた。
(もう、そんな時間、なんだ……)
森の向こう、見える海の方角から、微かに聞こえるメロディー。
苦しそうに胸元を押さえるまなか。
それを最後に私の意識は途切れた。
*