• テキストサイズ

煌めく碧の御伽噺【凪のあすから】

第2章 海と大地のまんなかに。







「何やってんの?」



そんな空気をぶち壊したのは、静かなのによく通る声だった。

その声に反応して私達の視線は一箇所に集められる。



いつの間に開いていたのか、教室の後ろ側の入口に今朝の男の子の姿があった。

怒る訳でも悪ノリする訳でもない、彼の淡々としたその質問に答えられる人間なんて、この場にはいなかった。



まなかの腕を掴んでいた女の子は、気まずそうにその手を離して視線を泳がせる。

自分が良くないことをしていたと言う自覚が、多少はあるのかもしれない。

それでも謝りもしない所を見ると、私はどうしても、彼女達の言葉を許せる気がしなかった。



誰も何も言わない。

その状況に居た堪れなくなったのだろう。

まなかが恥ずかしさで赤くなった顔を隠すように、俯きながら私の目の前を通り過ぎる。

次の瞬間、まなかがガタリと音を立てて椅子の足に膝をぶつけた。



「いたっ!!」



いつもならさほど痛がる程のことでもないのかもしれない。

けれどぶつけたのは、ぎょめんそうが生えてしまってタオルで覆い隠していた方の右足。

ぎょめんそう自身もその痛みを表すかのように、あの何とも言えないような音を発した。



ローズマリン軟膏を塗った時に聞いた、例の音だ。



「……え?」

「今の音なに?」



痛みで膝を抱ていたまなかがそのままの体勢で固まる。



「おなら?」



その言葉を革切りに女子達が笑い出し、まなかの顔を赤く染めあげて行く。



今にも泣き出しそうなまなかの表情を間近で見ていた私は、彼女に声をかけようと手を伸ばした。



『っ、まな……』



けれど、その手がまなかの肩を捕らえることはなく、彼女は走って教室から出て行ってしまった。





/ 67ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp