第2章 海と大地のまんなかに。
「何やってんの?」
そんな空気をぶち壊したのは、静かなのによく通る声だった。
その声に反応して私達の視線は一箇所に集められる。
いつの間に開いていたのか、教室の後ろ側の入口に今朝の男の子の姿があった。
怒る訳でも悪ノリする訳でもない、彼の淡々としたその質問に答えられる人間なんて、この場にはいなかった。
まなかの腕を掴んでいた女の子は、気まずそうにその手を離して視線を泳がせる。
自分が良くないことをしていたと言う自覚が、多少はあるのかもしれない。
それでも謝りもしない所を見ると、私はどうしても、彼女達の言葉を許せる気がしなかった。
誰も何も言わない。
その状況に居た堪れなくなったのだろう。
まなかが恥ずかしさで赤くなった顔を隠すように、俯きながら私の目の前を通り過ぎる。
次の瞬間、まなかがガタリと音を立てて椅子の足に膝をぶつけた。
「いたっ!!」
いつもならさほど痛がる程のことでもないのかもしれない。
けれどぶつけたのは、ぎょめんそうが生えてしまってタオルで覆い隠していた方の右足。
ぎょめんそう自身もその痛みを表すかのように、あの何とも言えないような音を発した。
ローズマリン軟膏を塗った時に聞いた、例の音だ。
「……え?」
「今の音なに?」
痛みで膝を抱ていたまなかがそのままの体勢で固まる。
「おなら?」
その言葉を革切りに女子達が笑い出し、まなかの顔を赤く染めあげて行く。
今にも泣き出しそうなまなかの表情を間近で見ていた私は、彼女に声をかけようと手を伸ばした。
『っ、まな……』
けれど、その手がまなかの肩を捕らえることはなく、彼女は走って教室から出て行ってしまった。
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