第2章 海と大地のまんなかに。
「……うろこ様の顔面に煮物ぶちまけたんだよ、まなかのやつ」
ぼそりと、まなかの言いたかったであろうことを光が代わりに説明してくれて……何となく察した。
「あいつ、大人気ないんだよなぁ」
光はそう言ってがしがしと頭を掻きながら、近くの棚にあったローズマリン軟膏を手に取り、私に放り投げて来た。
きっとまなかの膝、もといそこに生えた魚に塗ってやれ、ということだろう。
魚に軟膏なんて塗ってどうなると言いたいところだが、まなかが痛がっているのを見るとあながち間違っていないのかもしれない。
私は光の傍を通ってまなかの目の前に腰を下ろした。
まなかの膝で、ぴちぴちと鰭を動かしている魚……通称「ぎょめんそう」を横目で見つつ、軟膏の蓋を開ける。
どろりとした中身を人差し指ですくい取り、恐る恐るぎょめんそうへと持って行く。
どこにそれを塗ればいいのかいまいちわからず、迷っている間に指先がぎょめんそうの口に触れたのがわかった。
ぷっぶぷうぅぅぅっ
(……何だこの音)
初めて聞くその奇妙な音がどこで鳴っているのか一瞬わからなかったけれど、どうやら手元のぎょめんそうが発しているらしい。
「この音やだぁっ!」
まなかの言いたいこともすごくわかる。
だってさっきの音はまるで……
「くっははっ、屁ぇしてるぞ屁っ!」
私の隣にしゃがみこんで豪快に笑う光は、デリカシーの欠片もないその一言をさらりと言ってのけた。
「おならじゃないよ!!」
まなかが力一杯否定するのと同時に、私はお馬鹿な光の頭を軽くはたいておいた。
すると光は「いって!」と悲鳴を上げていたが知ったこっちゃない。
「絶対誰にも見せられないっ!!」
そう言って目元に涙を滲ませながら膝を抱えるまなかに、私はなんと声をかけていいかわからなかった。
「誰にもって、俺らには見せてんじゃん」
意味がわからないとでも言いたげな光に、まなかは当然のように返す。
「ひぃくんとまーちゃんはいいの!!」
まなかがそれをどういう意味で言ったのか定かではない。
けれど光の頬を染めさせるには十分で……。
私達を……光を、特別だと言っているようなものだった。
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