第2章 海と大地のまんなかに。
「おふねひき辞めてっ、海神様がお怒りになったらどぉすんだいッ!!」
海神様なんてものが本当に居るのかはわからない。
けれど自称、その神様の鱗だと名乗る変態おやじなら、ずっとうちの神社にいる。
だからこそおっちゃん達は恐れているのだ。
祟りとか呪いとか、そういった類いのことを。
「これだから人間はッ…!」
この言葉にはいつも、違和感を覚える。
一度陸に上がった人間も、今ここに居る俺達も、もともとは同じ人間で。
少しの違いと言えば、胞衣を持っているか持っていないかくらいのものだ。
それだけのことで、なんであんな風に貶されたり貶したりしなくちゃならないのか、俺には正直わからない。
まぁ、クラスで大口叩いた俺の言えることじゃねぇけど。
「俺等だって人間じゃんすか…、一応」
あぁ、まただ。
俺がこういう事を言うと、決まっておっちゃん達は顰めっ面になる。
「胞衣(エナ)も持ってねぇ奴らと一緒にすんなぃ!!」
そんなに胞衣を持っていることが偉いのか。
「格が違う格がぁっ!!」
仮にも神様の子だから、なのか。
陸の世界に捨てられた、生贄の子でもあるのに。
まだまだ終わりの見えそうにないこの会話を、これ以上聞く気にはなれなくて。
「俺…、そろそろ帰ります」
それだけを言って、鞄を手に立ち上がる。
「宮司様に言っといてくれぇ!これからどうすんのかって、うろこ様にもお伺いたてねぇと…」
おっちゃんの言葉を背に受けながら、玄関までの板の間を歩く。
「はいはい…」
「おいっ、気のない返事はこまっぞ!鳴波神社の跡取りっ」
あぁ、そうだ。まだ子どもであるはずの俺がこの場に呼ばれる理由はそれしかない。
俺だって、好きであの神社の跡取りやってる訳じゃねぇっつぅの。
「……ふいふぃ」
また適当に返事をして、おっちゃん達の小言が聞こえて来る前に素早く扉を閉めた。
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