第2章 海と大地のまんなかに。
“あの日”から、村のおっちゃん達は真依を見かけてもいい顔をしなくなった。
それまでは俺達と同じようにあいつのことも構い倒していたくせに、本当に大人は勝手な生き物だ。
それを肌で感じてしまった真依が、彼らと距離を置くようになったのはいつからだったか。
「なんでもまなかと真依が釣られたっていうじゃねぇか!」
「んぉっ!」
近くに座っていた誰かの、大きなその声にびっくりして思わず変な声が出た。
何故かたくさんの視線が俺に集まっていて、なんでこんなとこに居るんだっけと思い返す。
おっちゃん達が言いたいのは、今朝の“あの時”のことだろう。
「あいつら漁場まで侵略して来よってっ!!」
次々に声を荒らげる青年会…、と言っても青年なんて歳の人間は居やしない…のおっちゃん達。
昼間から集まって話し合うことがこれとは、この村もつくづく平和だな…なんて思う。
言うとややこしくなるから、絶対口には出さないが。
「うちの畑の魚まで引っ掛かっちまう!!」
誰かが目の前の広いちゃぶ台に、その節くれた拳を叩き付ける。
「塩害のせいで……こっちだって生活が苦しいってゆうのにっ!!」
もう一度その音が響いた直後、真ん中に置かれているやかんの取っ手がからんと音を立てて倒れた。
「しかもあいつらッ!おふねひきをやらないって言い出してんだっっ!!」
「えっ、おふねひきを?」
その言葉には俺ですら耳を疑っていた。
だってそれは、人の過ちをなかったことにするのと同義だ。
「信じられねぇだろうっ!?」
昔、人はみんな海に住んでいた。
でも、陸に憧れた人間は海を捨てた。海で暮らせるように、海神様がくれた、特別な羽衣を脱ぎ捨てて。
陸に上がった人間達には数々の苦難が待ち受けていた。
日照りが続き、水を求めて争い合う。
これを、海神様が怒っていると考えた人間達は、少女を生贄として船に乗せ、海に流した。
これがおふねひきの始まり。
今じゃ生贄じゃなく、米やら菓子やらだけど。
海に住む俺らは海神様と生贄の女がやらかした、その子孫らしい。
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