第2章 海と大地のまんなかに。
重い足取りで一段ずつ石段を登っていくと、すぐに見慣れた石造りの鳥居が見える。
あの日からここが私の帰るべき家に、そしてあの人が私の保護者になった。
というより、私があの人の世話係になったという方が正しいのかもしれない。
本当は光の家に厄介になるっていう話も持ち上がっていたみたいだけど、私自身がそこまで迷惑はかけられないって思ったんだ。
だから、私を監視する意味でも傍に置いておきたいと言う彼の提案に乗った。
鳥居をくぐって、古めかしい境内の扉を開け放つ。
『うろこ様~、ただいま帰りました』
脱ぎ捨てた靴を持って中に入ると、このお社の主であり私の保護者である彼と目が合った。
彼は徳利を大きく傾けて最後の一滴を自らの唇へ落とし、妖艶に微笑んで言った。
「おぉ、陸はどうじゃった?」
板の間から一段上がった畳の上で、徳利片手にごろりと寝転がっているのが彼の通常運転だ。
昼間から酒を煽る神様に守られている土地に住んでいるだなんて考えたくもないが、これは紛れもない現実なのである。
『ん~~……まぁ、相変わらず暑かったです』
その質問の意図が読めず、そう適当に呟いた。
「ふぅむ、」
自分で聞いたくせにそれだけの反応しか示さず、傍に置いてあった次のお酒を手に取るうろこ様。
思わず溜息を一つ吐いて、入って左手にある、誰の靴も入っていない下足入れに茶色い革靴を放り込む。
『それじゃあ私着替えてきますけど、お酒……ほどほどにしてくださいね』
それだけ言って、自分の部屋へと続く戸に手をかけたところで、
「口うるさい娘は、雄にもてんぞ?」
後ろからそんな言葉が聞こえてきたけれど、私は何も答えない。
(そんなの、私が一番わかってるよ)
返事の代わりに、わざと大きな音を響かせながら引き戸を閉めてやったから少し後が怖いけれど、まぁ気にしないでおこう。
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