第2章 海と大地のまんなかに。
私達の視線に気が付いたのかどうかはわからないけれど、ゆっくりとこちらに振り返ったその子達の口元はもごもごと忙しなく動いている。
「あ……」
そして、口を開きかけたあかりさんから逃げるように、近くにあったビールラックを足場にして塀を越えて行った。
「あちゃ~、またやられたかなっ…」
苦笑いでそう呟いたあかりさんはさっきまであの子達が居た場所へと歩みを進める。
「やられたって?」
何のことだかさっぱりわからない私達もその後を追うと、あかりさんの足元にたくさんの紙屑が転がっているのが見えた。
「ん―――、ガム文字?」
それらを掃き集めながら、あっけらかんと言ってのけるあかりさん。
私が今頭に思い浮かべていることが正しければ、それは一般的には嫌がらせや悪戯に使われるものではないだろうか。
彼女の向こうに見える塀に不揃いな文字が並んでいるのが見えてしまって、やっぱりそう言うことなのだと思った。
「ガム文字ぃ?」
呆れ気味に呟いた光に応えるように、あかりさんは今までのことを話し始めた。
少し前からさっきの女の子二人がここに来てせっせとガム文字を書いていること。
最終的になんて書くつもりなのかが気になって、そのままにしていること。
❝どっかい❞まで書かれているそれの続きがどうなるのか、あかりさんは何となくわかっているみたいだった。
「ここまで来ると、やっぱり……」
小さく呟かれた言葉がどういう意味を持つのかはわからなかったけれど、その声が酷く寂しげなものに聞こえた。
「知ってるガキなのか?」
それをわかっているのかわかっていないのか、光が無遠慮に口を開く。
ごみを掃き終えてこちらに振り向いたあかりさんの表情は暗いものなんかじゃなくて。
「なんでもないっ」
そう言われてしまえば、私はもう何も言えなかった。
海に飛び込むとやっぱり呼吸が楽になる。
緊張で凝り固まっていた身体を解すようにぐっと一度だけ伸びをして、目の前を泳ぐ光の後を追った。
『ねぇ、光』
隣で泳ぎながら声をかけると、視線だけがちらりとこちらに向けられる。
「なんだよ?」
未だに不機嫌な顔をしている光には呆れるしかない。
それでも、さっきのことが心のどこかに引っかかったままだった。
*