第2章 海と大地のまんなかに。
あれから私は、ただただ足を動かすことに専念していた。
思っていたよりも長い間追い掛け回されたこともあって、暑さと疲れから喋る気力もない。
それなのに暑い暑いと文句を垂れながら後ろを歩く光のせいで、さっきよりも暑さが増したような気がする。
『ちょっと光……余計暑くなるからやめてよ』
なんとかそれだけを言葉にすると、今度は私に対してぶつぶつ言い始める光。
あと少しで冷たい飲み物にありつけるのだから、ちょっとの間くらい口を閉じていて欲しい。
黙々と足を動かしていると、目指していた水色の建物とその前で掃き掃除をしている女の人の姿が目に入った。
どこか見覚えのある後ろ姿のその人は、顔をこちらに向けたかと思うと驚きの表情を浮かべた。
「あれーー?真依ちゃんじゃん!」
青色の瞳と赤に近い焦げ茶のふわふわしたショートカットの彼女を、私は知っている。
『あかりさんっ!』
笑顔で手を振ってくれる彼女の元へと駆け寄りながら、そう言えば彼女の仕事先は陸の店だったなと思い出す。
まさかこんなに近くだなんて思ってもみなかった。
「今日はまなかちゃん一緒じゃないんだね~」
確かに私とまなかは毎日一緒に登下校してるけど、なんであかりさんがそのことを知ってるんだろう。
「子供じゃねぇんだから、いつも一緒なわけねぇだろっ!」
私の隣にやって来て不機嫌そうに言う光。
そうか、あかりさんが言ったのは私のことじゃなくて光のことか。
一人でそう納得していると、あかりさんの右手が光の鼻の頭を摘み上げた。
「あだっ!」
「はっはぁ~ん、子供がよく言うよっ」
どこか楽し気なあかりさんと心底鬱陶しそうにしている光。
光は素早くあかりさんの腕を振り払ったけれど、彼女は未だにまにまと笑っていた。
兄弟の居ない私にとっては羨ましいそれも、光にとっては面倒臭いことこの上ないんだろうな。
なんて思っていると、苛立ちを隠そうともしていなかった光の表情に違う色が浮かんだ。
その視線はサヤマートとそれを囲むようにして造られた塀の間に向けられている。
『光?』
訝しげな表情で一点を見つめている光の視線を辿っていくと、ランドセルを背負った二人の女の子の姿があった。
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