第2章 海と大地のまんなかに。
「ぇ、ぁ…」
私が何の話をしているかわかったのか、光の表情に少し気まずさが滲むのがわかった。
『確かに、私達との約束を破ったのはまなかだよ』
それは変わらない事実で、まなかや私のことが気に食わないのもわかる。
だけどそれでも。
『でもやっぱり、手を出したらダメだよ』
暴力が悲しみや憎しみしか産まないことは、私が一番よく知っているから。
これは“あの日”から何度となく光に言ってきたことだ。
「っ、わかってるよ……」
そう答える光の顔がどこか苦しげに歪んでいて、やっぱりあの日のことを思い出させてしまったのだとすぐにわかった。
私の言葉がそうさせたんだってことは嫌でもわかるのに、私は光のそんな顔見ていたくなくて、笑いながらその背を叩く。
『それならよしっ!』
かなり態とらしい態度になってしまったけど、光にはこれくらいの方がいい。
少しして、怒りで震えだした光から逃げるように、私は通い慣れない通学路を駆け出した。
“あの日”、光の記憶に嫌なものを残してしまったことは、後悔してもしきれない。
だけどあの時、光が私を探しに来てくれていなかったら、私はきっと今ここに居ないと思うから。
会えるかどうかもわからないあの人を追って、初めて陸に上がったあの日。
私が目にしたものと、私を襲った息苦しさと恐怖。
それらから救い上げてくれた一人の男の子がいたこと。
そこまで思い出しかけたところで、あの日のものに似た息苦しさと軽い眩暈に襲われて、やっぱりだめか……と記憶を引っ張り出すのを諦める。
(私があの日の出来事を乗り越えられる日は来るのかな……)
なんて考えても仕方ないことを考える自分に溜息が漏れた。
それにしても、今日は暑すぎる。
制服の襟元を摘んで風を送ってみるけれど、涼しさなんて欠片も感じなかった。
心做しか額に滲む汗の量もいつもより多い気がする。
普段地上に上がることがないから陽の光には弱いのかもしれない。
ぎゃーぎゃー言いながら追いかけて来る光をちらりと盗み見ると、やっぱり光の頬も少し色付いている。
そんな光を見た私は、朝のお詫びも兼ねてサヤマートでジュースでも奢ってあげようと心に決めたのだった。
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