第2章 海と大地のまんなかに。
学校からここまで走って追い掛けて来たからか、少し息が苦しい。
私の声に気付いてその場で待っていてくれる光はやっぱり優しいと思う。
その隣まで走り切って足を止め、膝に手をついて呼吸を整える。
「……あいつらと一緒に帰らなくていいのかよ」
小さく呟かれたお決まりの台詞に、ちらりと光の顔を伺うけれどその表情は読み取れない。
不貞腐れたようにそっぽを向く光に、少し安心した。
自分から謝りたいと思っている時ほど目を合わせようとしない光の癖は、昔から変わっていないから。
『私は……光と一緒に帰りたいんだよ』
そして、私の精一杯の気持ちを込めたこの言葉もずっと。
それでも目の前のお馬鹿さんは、この言葉の持つ意味に気づいてはくれない。
今だって私から目を逸らしたまま「そーかよ」と言って歩き出すくらいなのだ。
どう見ても私のことを意識していない光に、自虐的な笑みが漏れた。
それでも、私は光の隣に居たいと思ってしまう。
だから、誰よりも先に光を追い掛けてその隣に並んで帰る。
これは小さい頃からの私の特権だと思ってるけれど、やっぱりいつもちょっとの罪悪感が胸に残る。
近いけれど、少し近付き過ぎて、本当の気持ちに気付いて貰えない。
私と光は、そんな距離に居るんだと思う。
この気持ちに気付いてくれたらと思う反面、今の関係を壊してまで自分の気持ちを伝えたいとも思わない。
断られることは何となくわかっているし、それに堪えられる程、私は強くないから。
(……ずるくてごめん)
教室を出る時に見えたちさきの顔を思い出して、心の中でそう呟いた。
まだ数える程しか通ったことのない通学路を、お互い黙ったまま歩く。
いつもなら光が話し始めるのを待って、私がそれに相槌を打ったり少し反論したりするのだけど、今日は私も光に謝らなければいけないことがあるのを思い出した。
『あのさ…、光』
突然話しかけたからか、驚いた様子で私を見つめる光と目が合う。
『今日の朝、まなかに制服のこと言えなくて、ごめん』
今、光の機嫌が悪いのは朝のことが原因じゃないってわかってはいるけれど、謝ると決めたからには早めに謝っておきたかったんだ。
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