第2章 海と大地のまんなかに。
光も、まなかのあの表情を見てしまったのかもしれない。
知らない子に見えてしまいそうなくらいに綺麗な、恋する女の子の顔を……。
自分の好きな子があんな顔で誰かを見つめていたら苦しくなって当然だと思う。
(わかりきってたことだけど、……やっぱり光はまなかが好きなんだ)
そう改めて思い知らされて、心の中で自嘲気味に笑いながら視線を床に落とす。
私は光が苦しんでる姿を見たい訳じゃないし、寧ろそんなの見たくない。
でも、まなかが泣いてる姿だって見たくはないんだ。
もちろん、ちさきや要のそんな姿も見たくなんてない。
だけど私はきっと、どう頑張っても誰かが傷付く姿を見ることになる。
それは光とまなかが付き合うことになっても、万が一私と光が付き合うことになっても同じことで、傷付くのは私だけじゃない。
(だって、光を好きなのはーーー…「真依!」
突然耳に入って来た自分の名前に、慌てて顔を上げて声の主の方に向ける。
「自己紹介、次真依の番よ!」
少し小さめの声で焦ったように告げるちさきの顔はほんのりと赤くなっている。
『ご、ごめん!』
ちさきの声に気付かなかったこと、 恥ずかしい思いをさせてしまったこと。
いろんな意味を込めて謝罪をしながら前を向くと、たくさんの視線が私だけに集められていることに気付く。
身体中の熱が一気に顔に集まってきたような気がしたけど、気のせいだと思うことにして震える唇を開く。
『っ、鳴海真依、です…!』
一旦自分を落ち着かせようと深く息を吸い込んだ時、
「なーんか臭くねぇー?」
静まり返った教室に、その大きな声だけがわざとらしく響いた。
*