第2章 海と大地のまんなかに。
しんとした教室に、じわじわと煩い油蝉の鳴き声と黒板に擦れるチョークの音だけが響く。
この教室にはそれなりの人数の生徒が居るにも関わらず、誰も何も喋ることなく私達を舐めるように見つめていた。
黒板に私達の名前を書いていた先生がチョークを置いて口を開いた。
「えーー…、」
さっき職員室で簡単な説明を受けた時にも思ったけど、この先生の喋り方はかなり個性的だ。
「波路中学校が廃校になってねぇ…」
授業の聞き逃しは絶対にないだろうなと思えるくらい、ゆっくりと喋ってくれる先生。
(すごく優しそうな先生だし、上手くやっていけそうな気もするけどこの喋り方はちょっとね…)
「うちの美濱中学校と統合されることになったんだけど…」
どうしたものかと心の中で苦笑しながら教室を見渡していると、窓際の席に見覚えのある姿を見つけた。
濱中の制服を着ているから同じ学校だとは思っていたけど、まさか同じクラスになるとは思わなかった。
朝の男の子はぼーっと窓の外を眺めていて、先生の話を聞いているのか聞いていないのかよくわからない。
彼はあの後、私達を釣ったことを謝ってくれて港まで送ると言ってくれた。
船を運転していた彼のお祖父さんも乗って行けと言ってくれたけど、さすがにそれは悪いからって断った。
私達が海に飛び込む前にも、気を付けてって声をかけてくれるような人だ。
まだ出会って少ししか経っていないけど、彼はいい人なんだと思う。
そう思っているのはたぶん私だけじゃない。
(たぶん、まなかもーーー…)
自然と窓の方へ向いた私の目に映ったのは、彼をじっと見つめるまなかとその隣で拳を握り締めて俯く光の姿。
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