第2章 約束の食卓
「・・・・それを何で君が持ってる訳?罰当たりはどっちなんだか、この女誑しめ」
「ははは。ま、呑めよ。今度はいつ会えるか知れないしな。たんと食って呑んでおけ。お前は放っとくと犬の餌みたようなモンばかり食ってやがるからな。全く目放しならない」
「だったらフラフラしてないでちゃんと見張ってて欲しいモンだよ。あっちこっち動き回ってまともに所在も知れないんだから、待つ身にもなれって話だよ、本当」
「ん?律子の事か?アイツ、お前に愚痴でも溢したか。はは、まさかな」
「しっかり者の律子さんが僕なんかに愚痴る訳ないだろ?」
「だろうな、アイツはお前なんかより余っ程しっかりしてて当てになる」
無頓着に言い切る檀に太宰は渋い顔をする。
「いくらしっかり者だからって新婚早々新妻を放ったらかして大陸まで行くってのはどういうモンかな。どうせあっちこっちに女がいるんだろ?」
「世界中何処に行ったって男と女だらけだ。色んなヤツがいる。面白いぞ?」
「そういう話をしてるんじゃない・・・・まぁいいよ」
檀の邪気のない顔に当てられて太宰は溜め息を吐いた。
「そんな事より、お前の話だ。一体何に首を突っ込んでる?中原のバカが出張って来てるらしいな?・・・鴎外も絡んでると聞く。その上訳の判らん毛唐まで関わってるとなると、どうしようもなく抜き差しならんのじゃないかと思うじゃないか」
「・・・・何で笑ってんの?」
「お?笑ってたか。失敬。兎に角、安吾も心配してたぞ?太宰の阿呆はいよいよ死ぬんじゃねえかって」
「安吾に聞いたよ。賭けたんだって?この半年で太宰が死んだら、君はカレーライスを五十人前平らげるそうだね?」
「何だ、聞いてるのか。なら話が早い。そういう訳だからこの半年は死んでくれるな。流石の俺も一度に五十皿はキツい」
「・・・いや、是非半年のうちに死のうかと思うよ。惜しむらくは死んだら君の腹がカレーライスで弾ける様を見届けられないって事だね」
「そう言うなって。逆にお前が半年生き延びたら、安吾は薬を止める約束だ。半年生き延びるだけで人助けがふたつ出来るんだぞ?人に迷惑をかけ通しのお前の人生じゃ稀有な事じゃないか?大人しく死なんでおけ。少なくとも半年」
「安吾にはそんな急に薬は止められないから早く死んでくれって言われたぞ」
「ははは。お前は友達に恵まれてるなあ」