第3章 閑話
「あー…。それは…迷惑な話だなぁ…」
情けない顔で長椅子に伸びた太宰に中島が同情の目を向ける。
「どうせ追い回されるなら、せめて中原さんが女性なら良かったですね」
慰めだか追い打ちだかハッキリしない言葉を聞いた太宰は、体を起こして中島を呆れ顔で見た。
「馬鹿言っちゃいけない。あんな深情けの女に絡まれた日にはエラい事になるよ。凄い事言い出すな。止めてくれよ、全く。桑原桑原」
「まあしかし、哀しみを汚してしまうのは感心しないが、それも人間を失格して斜陽の日々を暗澹と送るきりぎりすよりは、まだしもマシかとは思うな」
国木田の一言に、事務所がしんとした。
「兎に角働け。中原がマゾヒストかナルシストか知らんが、働かなけりゃ金は入らないのはハッキリしてるぞ。生まれてきてすみませんなんて謝ったところで生まれてきてしまったのだから仕方ない。生まれてきた以上真面目に稼げ。わかったか」
この日、静かな事務所で如何に勤勉な時間が過ごされたか知りたい旨には、未だかつてない成果が上がった由鑑みて頂けば言うまでもなく、後日懲りずに太宰を襲った中原は、何時にない太宰の優しさに気味悪く、また何処かしら味気ない思いをしたのであった。
閑話。