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スプーンを削るー 文豪ストレイドッグス

第1章 MYRORD


「君も随分と罪なことをしたもんだねえ、ジョン」

数ヵ月ぶりに行われた組合の寄り合いで、隣り合わせたウラジーミル・ナボコフに興味津々の態で話しかけられたスタインベックは肩をすくめた。

「ラヴクラフトの事だろ?今日はそればっかり言われる。彼がこんなに人気者だとは知らなかったよ」

「彼に日本人の友達を紹介してやったんだろ?あの変わり者がチラシの裏に書き散らされた日本語の手紙を辞書と首っ引きで解読しているのを見たときには、顎が外れるかと思ったよ。引き千切ったチラシの裏だよ?あれを見た後じゃシベリアの永久凍土が大方溶けちまったって聞いてもさして驚かないね、私は」

「いや、僕は驚くよ、それは」

「フフ。どうせなら私に紹介してくれれば良かったものを。なかなか面白そうな男らしいじゃないか。ん?」

「一見食指が似ているように見えるけれど、
貴方には向かない相手じゃないかな。それに人との付き合いに不憫な相方が折角見つけた玩具を取り上げるような真似はしたくないよ」

「ははは、私だって後から手出しして彼の神々に粛清される気はないよ。まあいい事をしたね、ジョン」

「別に僕が紹介した訳じゃないんだけどね」

スタインベックは今もチラシを傍らに首を傾げて周りから遠巻きにされているラヴクラフトを見やって苦笑いした。

「折角仲良くなっても、いつ利害が相反するかわからない訳だし?反って酷な事をしちゃったかな」

「いいさ。そればっかりは誰にもどうにもしようがない。それにそれはそれで面白いじゃないか?」

「酷いなあ」

「お互い様だろ」

ウラジーミルは快活な笑顔を見せて、鷹揚にスタインベックの肩を叩いた。

「丁度いいじゃないか?君達も日本に行くんだろ?」

「君達も?じゃああなたも行くって事だ。ふうん・・・極東の小さな島国に誰も彼もが訪問してたんじゃ窮屈じゃない?煩わしいな」

顔をしかめたスタインベックに、ウラジミールは含みのある表情を浮かべた。

「箱庭のようなあの国にそれだけ素敵なものがあるって事だろ?」

快活な紳士の陰に舌舐めずりせんばかりの嗜好家が顔を覗かせる。

「私は昨今何かと話題の太宰の盟友に会いに行くんだよ?愉しみだね。檀一雄といってね、なかなかの偉丈夫らしい。私にもイポーニヤの友人が出来るよう祈っててくれよ、ジョン」

「はは、皆物好きだね」
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