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スプーンを削るー 文豪ストレイドッグス

第1章 MYRORD


「そう言えば日本にもいたね、君と同じミ・ロードを戴く異能者が。何て言ったかな?足るとか足りぬとか」

「・・・・稲垣足穂・・・」

ラヴクラフトの始終瞳孔の開いた様な眼がカッと見開かれた。

「そうそう、そいつだ。彼とは知り合い?」

スタインベックはラヴクラフトの異相に驚くでもなく、人の悪い顔で話を続ける。スプーンを削り出す手も止めない。

「なかなか変わった男らしいね。君みたいなものかな?」

「アルコール、ニコチン、稚児趣味、破綻した人間だ。穢らわしい」

「ミ・ロードを介したお仲間じゃないか。そう悪し様に言うものじゃないよ」

スタインベックは愉しそうに言いながら、木片から削り出した朴訥なスプーンの滑らかな柄を撫でた。

テーブルに両の拳を置いたラヴクラフトは目を見開いたまま、カタカタと体を震わせている。

「あれ?面識があるの?」

尋常でなく過剰反応しているラヴクラフトに、スタインベックがキョトンと尋ねた。

人見知りというか、人類見知りのラヴクラフトが、遠く日本に知り合いと言えるような接触を持った相手がいるとは考え難い。

「ない」

「じゃ何でそんなに嫌うの。いいじゃない。ミ・ロード繋がりで仲良くしたら?折角だからさ、友達になったらいいよ」

「た、蛸やい、い、烏賊を喰らうような輩が私と同じくミロードをあ、仰ぐとは・・・・」

「ああ、そこ・・・」

真っ青になって震えているラヴクラフトに、スタインベックは呆れたように苦笑した。

「そんな事言っていたら窮屈だろうに、でも君はそういう不自由な世界が好きなんだよね」

「・・・・不自由?」

「ラヴクラフト、その梟みたいな仕草、万一うちの家族に会ったときは止めておくれよ?飼われるか撃たれるか、ちょっと僕にも止められないからね、そこらへん」

「?」

「・・・・いや、いいんだ。君が僕の家族に会う事はないだろうからね。忘れてくれ」




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