第1章 MYRORD
「君を見てると、単純に不思議なんだけどね」
小さなナイフを使って木片を削りながら、不意にジョン・スタインベックが言った。
テーブルの向かいには組み合いに於ける契約上の共闘者である、H・P・ラヴクラフト。
「あれ?単純に不思議って変な言い回しだな。ははは。まあいいよね。君に相応しい二律背反だ」
「・・・・・・」
ラヴクラフトはスタインベックの手元をじっと凝視するのみ、スタインベックの話に対しては全く興味の程のない表情で以て答えた。
スタインベックは苦笑して、ラヴクラフトの視線の問いに応じる。
「これが気になる?木のスプーンを作ってる。ルーシーが金属製のものは口に障るって言うからさ」
椅子に背を預けて削りかけの木片をチェックしてから、スタインベックはラヴクラフトに顔を向けた。
ラヴクラフトは何を思っているのか、何もないテーブルの上をじっと眺めている。
スタインベックの口元に笑みが浮かんだ。
「つまりさ、今の僕の話」
「?」
身動ぎ一つせずに目線だけ動かして、ラヴクラフトは怪訝そうにスタインベックを見た。
目安がついたのか、スタインベックはナイフを持ち直すと先程より確信ありげな手付きでスピーディーに木片を削り出した。
「君にはいるのかな?些細な事をフと気にかけて、気付くと話題にしてしまったり、意識もせずに何かしてやろうとしてしまうような、そんなありふれた日常的な親しみを持てる相手がさ」
「・・・・・・・ロード・ダンゼイニ・・・・」
ラヴクラフトは思いがけず、彼にしては迅速な回答を返してきた。・・・内容は兎も角。
大分形を為してきた木片に息を吹き掛け、スタインベックは快活な笑みを口許に浮かべた。
「アイルランドの貴族様か。僕にはちょっと理解が難しいところだな」
「ミ・ロード。彼は美しいイマジネーションの源だ」
「ははッ、我が君とは恐れ入ったね。しかし主君に等しいミ・ロードに、一体どんな日常的な些細な親しみを感じるって言うんだい?ミ・ロードと言った時点で、君は彼の下僕も同然だよ。下僕は主君に親しみなど感じてはならないだろう?」
「・・・君は意外に頑迷だ。理解して貰わなくとも構わない」
特に気分を害した訳ではなさそうだが、急激に興味を失った様子のラヴクラフトは、欠伸をして木片に目を戻した。