第1章 いち (BSD/中原中也)
「中也、」
「は、何回呼ぶ気だ。………少しは落ち着いたかよ。」
「…さっきよりは、マシ。」
中也が近くにいて、温もりが感じられるだけでこんなに落ち着くだなんて、なんと単純なのだろうとは自嘲する。
そんな彼女を、「何笑ってンだ。」と中也が小突く。
「え、私笑ってた?ふふ、秘密。……ていうか、随分来るの早かったね。」
「あァ、首領がな。『そろそろチャンあの時期だよねぇ?早く戻ってあげなよ、中原くん。』ッてよ。」
「………………」
「おい引くなこら。」
中也の大して似てない森さんの物真似にではなく、その言葉自体にぞわっと悪寒がした。
なんであの人は私の精神状態を把握しているんだ。
あまり接するのが得意じゃないから基本的に避けているというのに。
「なんでなんでなんで」
「いや知らねぇよ。まァ手前は首領のこと嫌いだろうが、首領は手前のこと気に入ってっからなァ。」
「…止めてほしい……」
本当に読めない人。
能力のお陰か、他人の思考を読むことは得意だが、森さんだけは中々読めないのだ。
はぁ、と一つ溜め息をつけば、慰めのように中也に頭を撫でられた。
頭の天辺じゃなくて、腕を回して後頭部の辺り。
はそこを撫でられるのが好きだった。
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