第1章 いち (BSD/中原中也)
「手前……誘ってるような顔してんじゃねェよ…」
「ッ、は?」
彼の突拍子もない言葉に、危機感を感じて少し飛び退く。
けれど布団の中なのでそう離れられる訳ではなく、結局はほぼ抱き締められたまま。
「誘ってなんかない。」
「そう真面目に否定されるとなンだかな……まァ手前は基本頭撫でると然ういう顔になるけど。」
「……嘘…」
全く意識したことなかった。
確かに好きだし、気持ち佳いとは思ってたけども。
この指摘は衝撃が強い。
「有り得ない……消えたい…」
「まァ良いんじゃねェの。撫でるのなんて俺しか居ねぇだろ。」
「中也が一番危ないに決まってンでしょ…」
はぁ、と嘆息して、然う言いつつも彼女は一段と中也の胸に顔を埋めた。
今は精神優先。
そんな彼女に中也は意外そうに目を丸くし、けれど自分の胸に収まる様子が愛しくて、苦笑いを浮かべて再度確りと彼女を抱き込んだ。
「ん、中也………ありがと……」
睡魔に誘われているのか、言葉の最後の方は小さく消えていく。
程無くして、は微かな寝息を立てて眠りにつく。
そんな彼女の髪に一つ唇を落として、中也も一眠りしようと目を閉じた。
Fin.