第10章 とお (もののべ/物部正太郎)
指先を見れば、どうやら紙で切ったようだった。人差し指に線状の切り傷があり、思ったより傷が深いようでじわじわと血が滲んできていた。
冷静になると、じくじくとした痛みも指先から響いてくる。
「大丈夫、ちょっと紙で切っただけよ。ほら。」
心配そうに私を見つめる正太郎を安心させるように、私は人差し指を見せながら出来るだけ軽くそう伝える。
そして血を拭くためにティッシュを取ろうと彼の側を離れようとすれば、正太郎に何を思ったのかがしっと傷がある方の手首を掴まれ、少し彼の方に引かれた。
「ちょ、正太郎、なに…………って、!何してんの!」
何事かと振り返った途端目に入ってきたのは、正太郎が私の人差し指を口に含もうとしているところ。
私の静止虚しく、彼は紅い舌で傷に滲んだ血を舐めとり、そのまま人差し指を含んだ。
「っ、ちょ、っと………!」
「消毒。」
「………!?」
まさかこんなことをする質だとは思っていなくて、その上それをわざわざ言うあたりも衝撃でしかなくて
言葉が出なかった。
人差し指が正太郎の生暖かい口に含まれて、ざらざらした舌がゆっくりと何度も傷を往復する。
彼の唾液が少し傷に染みてひりひりするが、そんな痛みよりも恥ずかしさの方が断然大きくて私は何も言えずにされるがまま。
「…………!もう、いいから、正太郎、」
耐えきれずそう言葉をかけると、正太郎が指を口に含んだまま、立っている私を上目遣いに見上げた。長い前髪の隙間から、彼の瞳が覗く。自分の目の前のその光景が、余りにも扇情的で。
傷以外も舌が這い、そのまま口から人差し指を離したかと思うと、私の手を唇で撫でて、口付けを落とし始めた。もはやここまで来ると消毒とかいうよりも正太郎が楽しんでいるようにしか思えない。
正太郎の唇が私の手に触れるたびに少し快感を拾ってしまう自分が彼の思う壺にはまっているような気がして、目を閉じて耐えるしかなかった。
「」
ふと名前を呼ばれて目を開けると、掴まれていた手首を引かれて、床に座った彼の脚の間に座らされ、ふわりと包まれた。
「………ほんとに、何なのよ、一体」
大好きな彼の匂いを嗅ぎながらそう呟けば、正太郎の手が私の後頭部に回り、ゆっくりと撫でられる。答えになってないけど。
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