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短い話たち。

第9章 く (BSD/中原中也)



「それで……この格好で私にどこに行けと?」


中也の愛車の助手席に収まり、眠たい目を擦りながら隣の中也を見遣る。

いつも通り服と帽子をばっちり決めて、片手で少し気だるげにハンドルを操る彼は、


「うん、格好いい」

「はあ?」


思わず口から出た。いや、恋人である自分で言うのもなんだけれど、はふとしたときによく言っていることだ。最早言い過ぎて最近は中也に呆れられる位。

呆れて眉を寄せた中也がちらりとの方を見て、何か企んでいるような悪い笑顔を浮かべる。


「まあ、これから手前も磨いてもらえよ。」


そう言って入っていった地下駐車場。其処の上には少し品の高いお店が多く入るショッピングモールが聳え立っている。

中也は車を適当な場所に止め、エスコート宜しく、助手席の方に回ってドアを開け、スウェット姿のを下ろす。

そして未だに何処に連れていくのか判っていない彼女の手を引き、どんどんモールの中を進んでいく。此処までくるともされるがままだ。


「取り敢えず、こいつに似合う服を選んで遣ってくれ。」


まずは5階の高級ブランド店。入るや否やそう言って店員にを押し付ける中也。

すぐに店員が持ってきた2つのドレスから、中也が選んだ方に着替え、そのドレスとパンプス、コート、ハンドバッグにネックレスは全て中也のカードによって支払われた。

有り難う、と中也は店員に一言声をかけ、一先ず服装は様になったの手を引いて、今度は同じ階の美容室へ。中へ入ると、「こいつを頼む。」とだけ言って、あとはスタイリストに丸投げ。

がメイクとヘアスタイルを綺麗にして貰っている間、中也は何処かに行ったようだった。


「愛されていらっしゃいますね。」

「…え?」


メイクを終え、の髪を扱っていたスタイリストがそう言って、鏡越しに目が合った。

一瞬何の事かわからず、思わず聞き返すと、彼女はふんわりと微笑んで手元に目を戻す。


「彼、ですよ。」

「そう、ですか?」

「ふふ。前々から今日を予約されて、連れていくから綺麗にして欲しい、だなんて。良いプレゼントじゃあないですか。」

……今日?
スタイリストの言葉に思い返せば、今日は3月14日。俗に言う、ホワイトデーだ。

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