第9章 く (BSD/中原中也)
微かな眩しさを感じて、目を醒ます。
少しだけ開いたカーテンの隙間から日の光が溢れて来ていて、外はもう人が活動する時間なのだと朧気に思った。
近くに置いていた時計に目をやれば10:00過ぎ。今日は確か貴重な非番の日だったはずなので、もう一度寝ようと頭から布団を被った。
そういえば、彼も今日は非番とか言ってたっけ…そんなことが頭の隅に浮かんだけれど、思考は睡魔に勝てるわけはなかった…………はずなのだが。
ガチャ
不意に響いた鍵を開ける音に、遠退いていた思考は無理矢理覚醒される。
こんなことが出来るのは鍵を渡してある彼だけ。それはいいのだが、何の連絡もなく彼が来ることには、あまりいい予感が出来ず、は布団の中で小さくため息をついた。
そして案の定、足音が寝台[ベッド]の側で止まったかと思うと、ばさっと掛け布団を剥がされ、彼ー中原中也は問答無用に彼女に跨がった。
「起きろ、。」
ぐいっと顔を近づけて、耳許で囁かれ、ふわり、の大好きな中也の薫りが鼻を擽る。
目を擦りながら、彼女が目を開けると、いつもより柔らかい笑みを浮かべた中也と目が合った。
「…中也、どしたの」
「いいから起きろ、行くぞ。」
どこへ?という疑問は、中也が軽くに口付けたことによって消えた。
そして唇を離すと同時に、彼女の背中の下に手を潜り込ませ、一気に上半身を起き上がらせられた。
「付いてくりゃわかる。」
「でも、何も用意できてないよ。女の子は準備に時間かかるって……」
「素嬪[スッピン]に寝間着でいいから。」
「は?いや、さすがにそれは……」
「いいっつってんだろ、行くぞ。」
うだうだと言葉を続けるに業を煮やしたのか、中也は所謂お姫様抱っこでいとも簡単に彼女を持ち上げた。
女とは云え、人一人を持ち上げているのにびくともしない中也の腕に、さすがマフィア随一の体術遣いだなあとか、今更なことに感心して仕舞う。
此処で自分が抵抗しても勝てっこないのは明らかだし、寝起きで余り頭も働かないので、は最早彼の腕の中で寝ることに決めた。
目を瞑ったら即中也に頭を小突かれたけれど。寝かして。
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