第1章 いち (BSD/中原中也)
息一つ、着衣も一切乱れていない彼に、さすがだなあとは苦笑する。
「うん、終わったわ」
そう言って、出来るだけ周りを見ないようにして、は銃を太股のホルスターに入れながら入り口に向かう。
今日はその場に広がる紅を踏む音がやけに耳を侵食する、これは嫌な前兆。
「相変わらず早いねぇ、中也は。」
「ふん、当たり前だ。」
心の奥底に感じ始めた黒いモノを感じつつも、中也には気取られないようにいつも通りを装う。
けれど、小さい頃から隣にいた彼にはそんなこと通用するはずもなく。
あろうことか中也の前まで来たと同時にぐらっと視界が歪んだ。
「………ったく。」
耳許で中也が溜め息交じりに呟く。
ふらりと前に倒れかけたの身体は、お見通しと云う様に彼の右腕で抱き留められた。
その体温が伝わってきて、心地よい。
「あ、はは……バレた?」
「バレねぇとでも思ったか馬鹿野郎。」
野郎じゃないし、と悪態つこうとしたけれど、急激な目眩、気持ち悪さに口を噤まざるを得ず。
中也の肩口に顔を埋めれば、を支える彼の腕にぎゅっと力がこもった。
「……帰るぞ。」
彼の言葉に首だけで頷くと、其の侭二人はコンテナを後にする。
近くに部下の運転する黒のセダンが待っていて、二人が後部座席に乗り込むと、アジトへ向けて走り出した。
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