第1章 いち (BSD/中原中也)
空が一面雲に覆われている。
今にも雨が降りそうなどんよりとした天気、だが横浜は普段通り平和だった。
………港外れのコンテナを除いては。
「っ、た、たすけて、くれっ…………!!」
コンテナの中は、今や肉塊となっただけの元人間と血生臭い紅が広がっていて。
ガクガク震えながら腰を抜かして隅に追い詰められている男が、額に銃口を向けられて助けを請うていた。
「……密偵[スパイ]、お疲れ様」
助け虚しく、パァンと渇いた音を立てて男の額は貫かれた。
一切の表情なく引き金を引くは、ポートマフィア幹部、。
男は、彼女の異能で操られ、密偵として動いていたのだ。
彼の見開かれた目を閉じてやる。
そうすれば、その場に横たわる誰よりも安らかな死に顔になった。
操っていたとはいえ、マフィアのために働いた男。
それを労って、苦しませずに一瞬で葬ってやるのが、彼女の信条だった。
「終わったか、」
コンテナの中に低い声が響く。
その声に、それまで何も考えないようにしていた思考がほぐされ、安堵を感じながら振り向くと、入り口に他のコンテナで仕事を終えた相棒、中原中也が立っていた。
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