第2章 に (BLACKBIRD/伯耆)
部屋に残ったのは私と悠だけ。
これは匡なりの気遣いだ。
“薬師”である私の血を少しでも飲めば、あそこまで衰弱している悠は、欲を抑えられない。
私の血肉は同じ種の妖たちにのみ、薬となるのだ。
「悠、ちょっと待ってね…」
未だに荒く息をする悠に声をかけて、私は匡に言われた通り、護身用に持っている短刀を右手首に当てて引く。
「っ…………」
じわりじわりと感じる痛みを耐え、ぷくりと血の浮き出た手首を悠の口元に持っていく。
そのまま血が垂れ、悠の口に入っていった瞬間。
「!………っ」
悠が突然ガバッと起き上がったかと思うと、私の腕を掴み、手首の傷を口に含んだ。
そして途端に傷口を吸われる感覚。
「っ………いった…………」
悠は私に構うことなく血を吸う。
今の彼にとって、ほんの僅かな血でも麻薬となりうる。
ただただ、本能のままに血を得ようとするのだ。
こんなに直に吸われたことはなく、傷口が開くようで案外痛い。
それに耐えながら暫くそのままでいると、落ち着きを取り戻したのか、吸う力が弱くなってきた。
「……悠…?」
微かな声でそう呼ぶと、はっとしたように悠が目を見開き、こちらを見た。
「……」
今の状況を理解できていないのだろう、悠は呆気にとられたような顔で私を見つめ、そして自分が掴む私の手首を見遣った。
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